日本経済新聞 関連サイト

LECTURE191  2018 July

【第96回レギュラーセミナー】
やりたいことを実現するプレゼン   ~説得力アップのヒント~

資料はシンプル&ロジカルに 考え抜いて「念(おも)い」伝える

 上司や経営者を説得するプレゼン力を身につけたいと考えるビジネスパーソンは多い。今回の丸の内キャリア塾は、ソフトバンク在籍時に孫正義社長(現会長)のプレゼン資料作成にも参画したプレゼンテーションクリエイターの前田鎌利さんが、社内プレセン術のポイントやプレゼン論を講演。参加者たちは熱心に耳を傾け、体験に基づく質問が飛び交い会場は盛り上がった。

3分で収める社内プレゼン 決裁者の目線で考える


 私は約17年間会社に帰属して仕事をしてきましたが、常に求められたのは結果を出すためのスピードです。そのためには上司や経営者に意思決定の回数を増やしてもらう必要があります。会社組織では、彼らからゴーサインをもらわずに企画や提案を先に進めることはできないからです。
 相手からいかに短時間で必要な決裁を取るかが肝心となります。今回は社内プレゼンでいかに決裁を取るかに特化してお話しします。
 そもそも社内プレゼンの成否を決定づけるのは何でしょうか。私は「資料(スライド)で9割決まる」と考えています。決裁者が意思決定するために必要な情報が分かりやすく説得力を持って展開される資料を作ることができれば、当日はそれに沿って話すだけでOKです。
 そのためにはまず、プレゼンはできるだけ3分で終わらせることが基本です。忙しい決裁者にとってダラダラ長く、要領を得ないプレゼンほど困るものはありません。もちろん、プレゼン終了後に提案の是非をめぐって議論が始まることもあるでしょう。3分で概要を説明し、議論の時間はしっかりとる――。これが理想です。

本編資料は5~9枚で 論理展開を組み立てる


 プレゼンを3分で終わらせるためには資料の枚数を5~9枚に絞り込むことが必要です。この枚数には表紙やブリッジ・スライド(次の話題への「架け橋」として活用するスライド)は含みません。あくまでも本編です。
 いくら絞り込むからといっても、1枚のスライドに無理やり情報を詰め込むのはよくありません。1枚1枚のスライドをシンプルにするのが鉄則です。  大切なのは伝えるべき情報を取捨選択して、少ない資料で説得力のある論理展開(ストーリー)を組み立てることなのです。
社内プレゼンのストーリーはそれほど難しいものではありません。なぜなら、社内プレゼンの6〜7割がなんらかの課題を解決するために行われ、論理の型が決まっているからです。そのストーリーに沿ってプレゼン資料をまとめてください(図1)。
図1
 「1課題」「2原因」「3解決策」「4効果」の4つが、この順番で並んでいること。そして、それぞれが「なぜ?」「だから、どうする?」「すると、どうなる?」という言葉でつながっていること。これにより、ロジカルで分かりやすいプレゼンになります。決裁者も意思決定しやすくなるというわけです。

経営理念との整合性 資料作りの前に必ず確認


 次の3つのポイント(図2)については、十分な材料がそろっているかを確認する習慣を身につけてほしいです。スライドを作る前にじっくり備えてください。
 まず、提案する事業を実施することによって「本当に利益を生み出すのか?」という財務的視点です。必ず押さえなければならないのは、コストと売り上げ、収益予測です。「自分は技術職だから必要ない」は通用しません。社会人で組織に帰属したからには勉強するのは当然のことと考えましょう。
 2番目に、実現可能性です。実際に現場できちんとオペレーションが回るかどうかです。 
 最も大事なのが3番目、経営理念との整合性です。経営者の最終的なよりどころは経営理念なのです。会社の理念に本当に寄り添っているか、提案したことを最後まで自分がやりきれるか、会社の理念を通じて社会が良くなっていくかまでを腹の底から納得して提案できていることがとても大事です。
 このような姿勢で資料作りに取り組むことで、説得力も格段に増すと確信しています。
図2



質問に対応できる 補足資料も用意する


 社内プレゼンでいよいよ発表のとき、概要を3分で説明した後に議論をとお話ししましたが、その際に大事なのがアペンディックス(補足資料)を用意することです。
 本編資料は提案内容の骨子だけをシンプルに伝えているので、当然決裁者や上司から細かな点や確認したい点が出てくるでしょう。その問いかけに答えられるよう本編から落としたデータはアペンディックスとして資料化し、いつでも取り出せる状態に準備してください。
 では、実際にどのようなものが必要なのか。手をかけて凝ったものを作る必要はありません。分かりやすさを考慮し細かい枝葉をそぎ落として作った本編資料の元データをそのまま貼り付けることで基本的には対応できます。  プレゼンはある程度テクニックが求められますが、それ以上に大切なのは考え抜くことと念(おも)いの強さです。
 「念」は漢字をばらすと「今」の「心」と書きます。今、自分の心を強く支配している気持ち、強い感情。会社のためになる、社会のためになるという念いがあることがとても大切です。それらが伴わないといくらきれいなプレゼン資料を作っても相手には伝わりませんし、決裁が通りません。  プレゼンは念いを伝えるツールなのです。しっかりとした念いをもって、説得力のあるプレゼンをするにはどうすればいいのかを考え抜いてください。そうすれば資料作りにも相手に伝わる分かりやすい工夫が加わり、提案に対して自信が持てるようになるでしょう。


講師: 前田鎌利さん(まえだ・かまり)さん
書家/プレゼンテーションクリエイター 株式会社 固 代表取締役 一般社団法人 継未 代表理事

1973年生まれ。東京学芸大学卒業後、ソフトバンクをはじめとして17年にわたりIT事業に従事。2010年に孫正義氏の後継者育成機関であるソフトバンクアカデミア第1期生に選考され年間1位を獲得。現在200社を超える企業で講演・研修を行うほか、プレゼンテーション・スクールを展開している。著書「社内プレゼンの資料作成術」「最高品質の会議術」(ダイヤモンド社)など。