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LECTURE211 2022 February

丸の内キャリア塾とは、キャリアデザインを考える女性のための実践的学習講座です。毎回、キャリアやライフプランに必要な考え方と行動について多面的に特集しています。

「女性の健康週間」
産婦人科医が女性の健康を生涯にわたり総合的に支援することを目指し、3月3日のひな祭りを中心に3月1日から8日の国際女性の日までの8日間を「女性の健康週間」と定め、日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会の共催で2005年にスタート。08年からは、厚生労働省も主唱する国民運動として様々な活動を展開しており、今回で18回目を迎えます。全国各地で開催される女性の健康に関する市民公開講座などの情報は、日本産科婦人科学会ホームページの「イベント情報」よりご確認ください。

【インタビュー 1 若者と性】

性暴力はなぜ起こるのか
人間関係学ぶ性教育を

今回丸の内キャリア塾は、「女性の健康週間」を応援する特集を3日間にわたり掲載しました。1回目は「若者と性」をテーマに、なくならない性暴力や性教育の問題点などについて産婦人科医の種部恭子先生に語っていただきました。

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種部 恭子先生
富山県議会議員、産婦人科医

ジェンダーバイアス
性暴力の背景に

――日本の性暴力の実態は。

種部 性暴力の9割は顔見知りからの被害です。会社や学校、家庭などの生活圏内で、支配関係に乗じた性暴力を受けているからこそ、日常生活が失われることを恐れ誰にも相談できないのです。しかし、性感染症検査や緊急避妊や中絶を希望して産婦人科を受診する女性の背景に、語られない性暴力が潜んでいることがよくあります。性暴力被害者のためのワンストップ支援センターが全都道府県に設置され、私も委嘱医として支援にかかわっていますが、性暴力を許さないという社会の強い決意が不十分であり、被害からの回復や加害者の処罰がしやすくなったとは言えません。
 もっとも多いのは交際相手や夫からの性暴力です。避妊に応じない、性交を断ると不機嫌になる、中絶をさせないというのも明らかな暴力です。しかし「ノー」と言いにくいこと自体が幸せな関係性でないことや、支配や暴力のない関係性を育む方法について我々は教育を受けていません。

――日本では女性が避妊することへの偏見などがあるようです。

種部 女性が性に積極的であることはふしだらで恥ずかしいというような「ジェンダーバイアス」が根強く、ピルや子宮内避妊具など女性が主体的に実行でき、かつ効果が高い避妊法の使用率が上がりません。

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――緊急避妊薬はオンライン診療での処方が認められました。

種部 避妊のない性交や性暴力を受けた女性にとって、緊急避妊薬は望まない妊娠を避ける最後の手段です。一つ前進と言えますが、避妊や医療にアクセスしにくい10代の女性にとっては、まだハードルが高いです。学校における性教育をはじめ、社会においても性を健康や権利として捉える風土はなく、避妊は男性主体、中絶も女性の自由意思で行えないなど、良好な環境にあるとは言えません。

女性主体の避妊
海外に見劣り

――日本社会が特殊なのでしょうか。

種部 避妊の選択に関する国連の調査では、日本では男性用コンドームが75%、性交中絶法(腟〔ちつ〕外射精)が10%と男性主体の避妊法が85%を占め、女性が主体的に使用できる子宮内避妊具や経口避妊薬「低用量ピル」などの使用が6%ほどにとどまります。一方、世界平均では低用量ピルが16%、子宮内避妊具が17%、日本で未承認の避妊法などを含めると、効果の確実な避妊法が70%を占め、男性用コンドームは約20%に過ぎません。英国やドイツなどでは10代の女性にピルを無償化し、若者のための避妊相談の窓口を設置するなど、確実な避妊法にアクセスしやすい環境が整っています。

――日本でも性をオープンに考える必要がありそうですね。

種部 性は隠すものでなく、人生を豊かにするものと肯定的に捉えることが重要です。性感染症予防や避妊を教える性教育も必要ですが、価値観や意見の違いを認める関係性の築き方や人権まで幅広く学ぶ包括的な性教育であるべきです。性を否定すればするほど、予期せぬ妊娠や性感染症に直面したときに相談しにくくなり、健康被害は増大します。
 今、子どもたちの性は二極化しています。家庭や学校に居場所がない子どもたちは、より低年齢で性的搾取や暴力が背景にあるリスクの高い性行動に至っています。一方いわゆる草食化により健康な恋愛の機会が減っており、人間関係や利害調整を学ぶ経験が積みにくくなっています。人の気持ちは思い通りにはならないことや、「イエス」「ノー」が言いやすい良好なコミュニケーションなどを学べずに、性暴力の加害者になるのは不幸です。性は幸せのためにあることを学んでほしいですね。

【インタビュー 2 ピル】

ピル服用で体調管理
働き盛り世代、我慢せず活用を

「女性の健康週間」を応援する本特集、2回目は「ピル」を取り上げます。避妊だけでなく、女性特有の病気の予防や治療、体調管理にも使われるピル。しかし、日本ではネガティブなイメージを持つ人も多く、使用率は低いまま。女性アスリートの健康管理に詳しい能瀬さやか先生は「体調に人一倍敏感なトップアスリートもコンディショニングの一環として積極的に使用している」といい、特に20~30代の働き盛りの女性にピルの上手な活用を勧めています。

Dr.Nose

能瀬 さやか先生
東京大学 医学部付属病院 女性診療科・産科

痛み伴う月経トラブル
子宮内膜症リスク高まる

――20~30代の女性が気を付けるべき健康リスクにはどんなものがありますか。

能瀬 この世代は仕事に張り切っている方が多く、体力的に無理が利くため、負担を抱え込んでしまいがちです。そのため何か不調を感じても受診しない方もいるのではないかと心配です。
 この世代に多い女性特有の病気には子宮頸(けい)がんや乳がん、また近年増加傾向の子宮内膜症などが挙げられます。子宮内膜症は本来子宮内にあるべき子宮内膜に似た組織が子宮以外の場所に発生し、月経のたびに増殖・悪化していく病気で若い方に多く発症します。月経中に強い痛みを生じる月経困難症で受診する人の、4人に1人以上が子宮内膜症と診断されているという報告もあります。20~30代は妊娠・出産を希望する女性も多い世代ですが、子宮内膜症は不妊症のリスクも高めます。また、月経前にイライラや情緒不安、腰痛、胸の張りやむくみ、体重増加など、精神的、身体的な症状を認める月経前症候群(PMS)に悩む方も多いようです。

――どのように対処すればよいでしょう。

能瀬 月経痛が頻繁にある女性は、子宮内膜症のリスクが2・6倍高いといわれています。月経困難症の痛みなどには鎮痛剤で一時的に対処できますが、将来の子宮内膜症のリスクなどを考えると、低用量ピル(ピル)をはじめとしたホルモン製剤を早期から活用し、治療していただいた方がよいと思います。ピルは避妊薬としても使用されています。日本では月経困難症の治療で使用する場合、保険が適用されます。
 月経のときには子宮内膜が剥がれて経血が出るのですが、この時に月経困難症の原因となるプロスタグランディンという物質が出ます。ピルの服用で子宮の内膜が薄くなり経血量も減少、プロスタグランディンも減るため月経困難症の改善につながります。また、排卵を抑制することでPMSにも効果があります。

アスリートでの使用増える
副作用少なく種類豊富に

――ピルに良くないイメージを持つ方も多そうです。

能瀬 そうですね。以前は太る、吐き気が出るなど副作用の強いイメージや、一旦服用すると、服用中止後、将来妊娠できなくなるなどの誤ったイメージを持たれたこともありました。現在のピルは低用量化が進み、ホルモンの含有量も少なくなり副作用も減っています。またプロゲスチン製剤などピル以外のホルモン製剤もいろいろ出ています。年齢などに応じてどれを選択するか決めますが、20~30代であればピルを使うことが一般的です。ピル服用前に月経周期が正常だった場合は、服用を中断すれば妊娠可能となります。

――女性アスリートを診察される機会が多いそうですが、ピルはどのような使い方をしていますか。

能瀬 月経困難症やPMS、経血量が多い過多月経などでコンディションに影響が出ている選手の治療や、試合日程に合わせた月経周期調節などにピル等を活用しています。服用の影響についての調査では、パフォーマンスが向上したと回答した選手が3割ほど、コンディションが良くなったと回答した選手は4割ほどいました。ピル使用率も増えており、五輪ではロンドン大会時は7%でしたがリオ大会時は27%と約4倍になっています。

――アスリートに限らず、一般の女性でも体調管理にピルが使えますね。

能瀬 もちろんです。月経困難症は個人差も大きく、中には救急車が必要になるような人もおり、仕事や日常生活にも大きなダメージを与えています。経済産業省が2019年3月に発表した調査では、月経による労働損失(欠勤、労働量や質の低下)は国内で4911億円にも及ぶとされています。一般の女性もピルを上手に使うことで、月経困難症やPMSの改善、体調管理などはもちろん、子宮内膜症など深刻な病気の予防も可能になります。不調や違和感を覚えたら産婦人科で相談していただき、ピルのメリット・デメリットを確認した上で治療法を選択するのがよいと思います。

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【インタビュー 3 更年期】

誰もが迎える更年期
生活見直す機会に

「女性の健康週間」を応援する本特集、3回目は「更年期」を取り上げます。必ずやって来て、つらい症状が出ることもある更年期は、女性にとって悩ましいもの。しかし、東京歯科大学市川総合病院産婦人科の小川真里子先生は更年期症状には様々な対処の方法がある上、今までの生活を見直す機会であり、その後の人生を健康的に過ごすきっかけにもなるといいます。

Dr.Ogawa

小川 真里子先生
東京歯科大学 准教授 市川総合病院 産婦人科 医長

個人差大きく
理解得られにくい

――更年期はいつ、どのような仕組みで起きるのでしょう。

小川 更年期は閉経前後の5年を合わせた10年間と定義されています。40代後半以降で月経周期の乱れを自覚する頃から更年期に入ったと考えるのが一般的でしょう。その頃から卵巣の機能が低下し、エストロゲンという女性ホルモンが減少するのです。それまで月経に合わせ一定の周期で変動していたホルモンバランスが不規則になることから自律神経の失調などが起き、いわゆる更年期障害と呼ばれる様々な症状が表れてきます。

――どんな症状でしょう。

小川 ほてりやのぼせ、発汗、めまいといった症状が多いですね。月経と関係のない出血や、肩がこる、疲れやすいといった症状もあります。そして重要なのが、精神症状です。イライラしたり感情的に不安定になったり、不眠やうつのような症状が出る人もいます。
 更年期を迎える年代は、職場では責任のある地位であったり、家庭では介護の問題が起きたりと様々なストレスにさらされますが、こうしたストレスが精神症状を悪化させることも。症状の表れ方には個人差も大きく、何の症状もなく過ごせる方もいます。そのため男性はもちろん女性同士でも理解が得られにくいこともあります。一人で抱え込まずに産婦人科医に相談してください。

――閉経後にもリスクがあるそうですね。

小川 閉経後にはエストロゲンがほぼ出なくなります。エストロゲンにはコレステロールや中性脂肪を抑制する作用があり、いわば女性の体を守る働きをしています。そのため閉経を境に動脈硬化や高血圧、脳卒中、心筋梗塞などのリスクが高まります。また骨密度が急減し骨粗しょう症も発症しやすくなります。
 これらの病気は長い老年期の健康に大きな影響を及ぼします。深刻な症状が起きてからではなく、様々な疾患のリスクが高まる閉経前後から対処していく必要があるでしょう。最近はコロナ禍による受診控えでこうした病気を見逃したり、運動不足から骨粗しょう症のリスクが増したりしているので気を付けてください。

生活に支障を感じたら
すぐ産婦人科に

――更年期障害の治療はどのように行われますか。

小川 まず患者さんに向き合い、よく話を聞くことから始まります。更年期の問題は心理・社会的な因子が大きな影響を及ぼしており、カウンセリングだけでも改善することがあります。
 薬物治療は、ホルモン補充療法(HRT)が中心になります。女性ホルモンを飲み薬や貼り薬で外側から少し補ってあげるという治療です。特にほてりやのぼせなど自律神経失調系の症状に高い効果を示します。また閉経後早期からHRTを続けることで動脈硬化や骨粗しょう症、認知機能障害などのリスクを減らすことも期待できます。ただ子宮筋腫などの疾患がある方は影響を受ける可能性がありますので、HRTを始める前にきちんと検査を受けてください。
 HRT以外には漢方薬やサプリメントなどを使った治療もあります。メンタルの問題が大きいときは抗うつ薬などを処方することもあります。更年期をきっかけに生活習慣を改善することもその後の健康生活にとって非常に有益です。
 更年期に入ると、突然様々な症状が出て驚く方も多いと思います。そうしたときは一度立ち止まり、自分が受けているストレスについて考え、生活ペースを考え直してもよいと思います。女性にとって更年期はそうした振り返りの時期かもしれません。しかし症状で生活に支障がある場合や、判断がつかない場合はぜひ産婦人科にいらしてください。

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