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LECTURE186  2018 February 

女性の健康週間(2/2)

【3】更年期の諸症状 心理・社会的因子も影響

寺内公一先生
寺内公一先生
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 女性健康医学講座 教授

どの女性にも必ずやって来る更年期。つらい症状があってもなんとなくあきらめていることはありませんか。でも更年期の諸症状は予防・治療することもできる上に、対処することで健康寿命の延伸につながることも。「女性の健康週間」を応援する本特集、3回目は東京医科歯科大学大学院教授の寺内公一先生に、更年期の対処について伺いました。

女性ホルモンの揺らぎや減少 様々な疾患リスク高める

  ――更年期症状はどのような仕組みで起きるのでしょう。
 閉経をはさんだ前後数年の時期を更年期といいます。50歳前後に閉経する人が大部分ですが、個人差があります。更年期に入ると卵巣の機能が低下し、エストロゲンという女性ホルモンが減少。ホルモンのバランスがくずれ、様々な症状が表れてきます。

 エストロゲンは一直線に減るわけではなく、大きく揺らぎを繰り返しながら減っていきます。更年期については2つに分けて考えるべきでしょう。閉経に向け揺れ動きながらエストロゲンが減る閉経移行期と、エストロゲンがほぼ出なくなり長期間経過した閉経後という2つのフェーズです。
 閉経移行期の問題として、いわゆる更年期症状が挙げられます。まず血管をコントロールする自律神経の失調による、ほてりやのぼせなどのホットフラッシュ、発汗といった症状です。また肩がこるとか疲れやすいといった身体症状が出ることもあります。そして重要なのが、精神症状です。イライラしたり感情的に不安定になったり、眠れない、ぐっすり眠った気がしないなどの不眠症状、さらにうつ症状が重くなる人もいます。

 ――閉経後のリスクにはどんなものがあるのでしょう。
 更年期の後期、閉経後にはエストロゲンがほぼ出なくなってしまいます。エストロゲンにはコレステロールを減らす仕組みがあるため、脂質異常症が起きやすくなり、それに伴う動脈硬化性の心血管疾患、例えば狭心症、心筋梗塞、脳梗塞などのリスクが高まります。また付随して高血圧や糖尿病などのリスクも増加します。またエストロゲンには骨を守る仕組みや、神経細胞を守る働きなどもあり、閉経後には骨粗しょう症から骨折のリスクが高まり、認知機能が低下して認知障害を起こしやすいといったことが知られています。
 これらの症状は、老年期の健康に大きな影響を及ぼします。女性の場合、健康寿命と平均寿命の差は12年くらいあるのですが、この差を少しでも縮めるためにも、深刻な症状が起きてから対処するのではなくて、様々な疾患のリスクが高まり出す閉経直後くらいから対処していく必要があるでしょう。

一人で何でも抱え込まず 産婦人科に相談を

 ――更年期障害の治療はどのように行われますか。
 まず患者さんに向き合い、よくお話を聴くところから始まります。更年期の問題は女性ホルモンの働きだけで説明できるわけではなく、心理・社会的な因子が大きな影響を及ぼしています。お話を聴くことで、それらの問題に対する理解が深まるとともに、患者さん自身にとっても自分を巡る環境を見つめ直すよいきっかけになると思っています。
 加えて生活習慣の改善も指導します。不健康な食習慣や、運動不足が将来的な生活習慣病のリスクとなることがあります。更年期の方でも、よく運動をする人の方が重篤なうつ症状になりにくいというデータもあります。

 薬物治療は、ホルモン補充療法が中心になります。女性ホルモンが乱高下、あるいは低下している状態に対し、外側から飲み薬や貼り薬・塗り薬で少し補ってあげるという治療です。ほてりやのぼせなどのホットフラッシュや泌尿生殖器系の萎縮症状などに、高い効果を示しています。また「ホルモン補充療法ガイドライン2017年度版」によりますと、閉経後にもホルモン補充療法を続けることで動脈硬化や骨粗しょう症、認知機能障害といった慢性疾患の予防も期待できます。
 更年期を迎える年代は、職場では責任のある地位であったり、家庭では介護の問題が起きたりと、様々なストレスがあると思います。一人で何でも抱え込まずに産婦人科医にいろいろ相談していただければと思います。

【4】がんは予防できる時代 産婦人科の役割ますます重要に

鈴木光明先生
鈴木光明先生
公益社団法人 日本産婦人科医会・がん部会担当常務理事 新百合ヶ丘総合病院がんセンター・センター長

 毎年、1万人以上の方が亡くなる乳がんをはじめ、女性特有のがんが増えています。背景には社会環境や生活習慣の変化があるようですが、検診やワクチンで予防できるがんもあります。「女性の健康週間」を応援する本特集、4回目は新百合ヶ丘総合病院がんセンター・センター長の鈴木光明先生に女性特有のがんを取り巻く状況について伺いました。

食生活の変化、晩婚・少子化 により婦人科のがんが増加

  ――女性のがんは増えているのでしょうか。
 女性特有のがんには子宮頸がん、子宮体がん、乳がん、卵巣がんなどがあり、以前より増えています。原因は社会環境や生活習慣の変化で、中でも食生活の変化が大きな影響を与えています。日本でも高脂肪食やジャンクフードが多く取られるようになり、これらは婦人科のがんだけでなく大腸がん、膵臓がんなどにも影響します。もう一つ大きな原因は、晩婚・少子化です。女性ホルモンのエストロゲンが長期間優位な状態にあると、子宮体がんや乳がんの発生を促進します。数十年前までは、女性は20代で結婚し、子供を4~5人産むことが一般的でした。妊娠~授乳中の3年間くらいは月経がありません。ところが現代は、結婚するのは30代、出生率は1・4ほどですから、昔と比べていかに月経回数(排卵回数)が多くなっているか、長期間エストロゲンに刺激されているかがわかります。

 ――何歳くらいになったらどんながんを発症しやすくなるのでしょうか。
 近年、若年層の子宮頸がんが急増しています。ヒトパピローマウイルス(HPV)の感染によって起こるもので、性交渉が盛んになる10代後半~20代に感染し、潜伏期間を経て20代後半~30代に発症しています。この時期は出産のピークと重なるので、がんのために出産ができないというもう一つの深刻な問題を併発します。次に30代後半~40代にかけて増え始めるのが乳がん、50代を超えると子宮体がんが増えます。卵巣がんも50歳前後がピークですが、種類が多いので10代で発症するタイプもあります。患者数は乳がんが圧倒的に多く、新規の罹患者が年間約7万6千人、その他のがんは1万〜1万5千人ほどです。

検診方法は進歩・多様化 早期の発見が可能に

 ――がんの予防、早期発見はどうしたらよいでしょうか。
 子宮頸がんはワクチンで予防できますし、検診を受けることで早期発見できます。国は、20歳以上は2年に1回検診を受けることを推奨しています。検診は細胞診検査が基本ですが、現在は細胞診検査との併用で、感度が高いHPV検査を取り入れている自治体もあります。乳がん検診はマンモグラフィー検査が基本であり、40歳以上は2年に1回受けることが推奨されています。ただ乳腺密度が高い人(若い女性で多い)の場合はマンモグラフィーでは見逃される危険性があり、近年は超音波検査を併用することで精度を高める研究が行われています。
 子宮体がん検診には、細胞診と超音波検査があります。対象となるのは不正出血がある50歳以上の方ですが、私の意見としては50歳を過ぎたら誰もが1度は受けた方がよいと思います。検診メニューは自治体によって異なるので、お住まいの地域の情報を確認してください。自治体が行っていない検査は、自費になりますが産婦人科にご相談ください。

 ――どこの産婦人科でも検査ができるのですか。
 特別な機器が必要な検査もあるので、どこでもすべての検査ができるわけではありません。行く前によく確認してください。
 私は産婦人科医も変わらなければいけないと思っています。女性がかかる病気は女性特有のものだけでなく、当然ですが男女共通のものも数多くあります。産婦人科医は、それらも含めた「女性総合診療医」になるべきです。胃がんのリスクを評価するためのピロリ菌検査も、大腸がん検診も、特定健診による生活習慣病の管理も、女性の体に関することはすべて産婦人科医が診るようになれば、働く女性にとっても大きなメリットになるに違いありません。

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