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LECTURE203 2019 October

丸の内キャリア塾とは、キャリアデザインを考える女性のための実践的学習講座です。毎回、キャリアやライフプランに必要な考え方と行動について多面的に特集しています。

【インタビュー】

国内外のプレーヤーと連携
熱意で使命果たすチーム作り

正解のないグローバル課題に取り組んでいくには、チームワークが求められる。国連の国際労働機関(ILO)で活躍する荒井由希子さんは「仕事で大切なのは、笑顔、体力、チームワーク」と語る。国際機関で働くために大切なことやリフレッシュ法などを聞いた。

荒井由希子さん

国連・国際労働機関(ILO)ジュネーブ本部
企業局多国籍企業ユニット 上級専門家
荒井 由希子(あらい・ゆきこ)さん

世界銀行勤務を経て、国際労働機関(ILO)入職。グローバルサプライチェーンにおける労働問題、企業の社会的責任に携わり、途上国におけるオペレーションをリードする。2013年にはILOを休職、東京2020オリンピック・パラリンピック招致委員会国際部ディレクターとして、海外ロビー活動のほか、プレゼンター、質疑応答の進行役を務めた。フォーブス誌「世界で闘う日本の女性55」に選出。

全ての人に
「ディーセント・ワーク」を

――仕事はどんな内容ですか。

 荒井 雇用と労働に関する国連専門機関、ILOのジュネーブ本部で働いています。国際労働基準を軸に、187の加盟国にて「働きがいのある人間らしい仕事」=ディーセント・ワークを創出することを目指すILOですが、私はグローバル企業との連携を通じたディーセント・ワークの促進を専門としています。
 世界でより多くの人に、より良い仕事を生み出すためには、途上国の労働問題を途上国だけの課題とせずに、そこに進出する企業との連携をも図りながら取り組んでいくことが必要です。私は、そのような国レベルの活動のリード役、統括を務めています。自分自身で足を運ぶ地域は、主にアジア、ラテンアメリカ、西アフリカです。

――それらの地域に行くのはどのようなときですか。

 荒井 ILOは国際労働基準がきちんと適用、実施されるための技術支援をする役割があり、加盟国の政府・雇用者団体・労働者団体からの要請で、現地に行きます。持続可能な責任のある企業行動を促し、同時にそれを可能とする政府の役割の強化も図っていきます。また、現地に進出しているグローバル企業をはじめ、労働と雇用に関する共通課題の取り組みに必要となる様々なステークホルダーを交えた対話を促進、中立な専門家という立場からファシリテーターとして解決策を導いていきます。
 政策対話を展開するためには情報収集が必要です。例えば企業経営者や労働者の生の声に耳を傾け、状況把握をすると同時に統計には現れない企業レベルの雇用データを創出していきます。
 アクション・リサーチと言いますが、リサーチのプロセスを用いて国際労働基準に関する啓発活動を同時に行い、現状を示す調査結果がさらなる対話のインプットの一つとなり、進出企業とその受け入れ国双方の共通課題がはっきりします。さらに、皆で取り組むことが互いのためになるという気付き・メカニズムが生まれてきます。それを「共同行動計画」というアウトプットにつなげて、確実にディーセント・ワークを創出していく。国際労働基準という仕事の世界において最低限尊重されるべきルールを軸に、政府、企業、労働者のウィンウィンな関係を支えていくことで国づくりに関わっていきます。

「ワン・オブ・ゼム」と
「ワン・オブ・アス」が大切

――国際機関で働くために必要なことはありますか。

 荒井 よく語学力が最も重要といわれますが、それはコミュニケーションツールに過ぎません。国連職員は複数言語を操ることを求められますが、語学力以上にもっと大切な基本的なことがあると思います。それは、笑顔と体力とチームワーク。私にとって、仕事の「三種の神器」とも言えますが、いかなる仕事においても同じことが言えるのではないでしょうか。
 体力が必要というのは、仕事柄、渡航が多く、また時差のある国々と朝から晩まで電話・ビデオ会議をすることも多いからです。
 地球規模で活動するのは常に学びがあり、刺激になります。アジアでの知見と経験がアフリカやラテンアメリカでの活動にも生かされる。国境を越えた体験の共有が私たちの役割でもあります。
 現地に行って重要なことは、まず、自分が「ワン・オブ・ゼム」としてその国の人たちと同じ目線をもつこと。そして、さらに彼らからも「ワン・オブ・アス」として受け入れてもらうことです。我々もみんなの一員として加わる。援助ではなく、あくまでも一緒に取り組んでいくというスタンスが大切と心得ています。
 私は今、ビジネスとディーセント・ワークに関する専門家のグローバル・ネットワークのコーディネーターも務めています。各国の活動で必要な専門家を適宜引っ張ってくることでニーズに適したチームを作っていきます。例えば、日本政府の拠出金で実施しているベトナムのエレクトロニクス産業のプロジェクトでは、ベトナムに進出している日本企業の先駆的な取り組み事例から学ぶと同時に、労働行政をはじめ、該当する分野にたけた人材からなるチームを作り上げました。
 各国に必要となる専門家や知識は異なります。決まった枠組みに当てはめて統括するのではなく、熱意(パッション)をもってきっちりと使命(ミッション)を果たしていけるチーム作りから始めていくのです。そうして生まれるチームワークがあってこそ、「正解」のないグローバル課題に「答え」を導き出していくことが可能となります。

ダイバーシティーは力
食と旅でリフレッシュ

――様々な国の人たちをまとめるのは大変そうです。

 荒井 チームに10人いたら、出身国が全部違うこともしばしばです。見てきた世界が違う人たちの集まりというのはアイデアの宝庫であり、ダイバーシティーはパワーになります。

――健康を保つために心がけていることはありますか。

 荒井 食を楽しむことです。ジュネーブにいるときは季節の食材で和食を作っています。週末はフランス側の村の朝市に出かけ、スイスとは違う旬の食材をそろえ、魚をさばいたり……。「食」は「人」を「良くする」と書くように大切で、自分なりのこだわりがあります。
 また、旅もリフレッシュとパワーアップにつながっています。初めて接する文化に浸ったり、出会った人たちと話すのも学びとなります。オンでもオフでも訪れた国をがっちりと受け止め、心から楽しむことが仕事の活力になっている気がします。

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