NIKKEI Annual Report Awards 2019

企画・制作:日本経済新聞社 イベント・企画ユニット

グランプリ企業対談

2030年へ〜中外製薬の新成長戦略

 中外製薬の「アニュアルレポート2019」(19年12月期)が、「第23回日経アニュアルリポートアウォード」でグランプリを受賞した。リポート作成の経緯や新たな経営計画などについて、3月23日に最高経営責任者(CEO)に就任した同社社長の奥田修氏に、同アウォード審査委員長の北川哲雄氏が聞いた。

中外製薬株式会社 代表取締役社長 奥田 修氏
青山学院大学名誉教授・東京都立大学特任教授 日経アニュアルリポートアウォード 審査委員長 北川 哲雄氏

目を見張るパイプライン

フォト:奥田 修氏

奥田 修氏

北川グランプリ受賞おめでとうございます。5年ぶり3度目のグランプリですね。参加企業全体のレベルが上がっている中で、貴社は準グランプリを含め上位を維持し続けており、リポートの内容が毎年進化し続けていることに感心しています。

奥田外部から高い評価を受けていることに関して、作成しているチームのメンバーはもちろん、私たち経営陣はみな、たいへん誇りに思っています。

北川近年の統合報告書では、企業価値拡大と社会課題解決が同心円化しています。貴社の場合は社会との「共有価値の創造」という経営基本方針のもと、「患者中心の高度で持続可能な医療の実現」を説得力のある表現で説明されており、医薬が専門外のアナリストにも高評価でした。

奥田前回の中期経営計画を策定するときに、ヘルスケア領域が今後どうなっていくかを真剣に議論しました。ライフサイエンスやデジタル技術の飛躍的な進歩によって医療のあり方は大きく変化し、ヘルスケア産業でもペイシェント・ジャーニーに沿ってニーズを見据えるサービスの産業化や情報産業化が進展すると考えられます。創薬を中核に据える当社でも、医薬品(モノ)の範囲を超えたソリューション(コト)の提供も今後は貢献範囲になっていきます。当社では我々経営陣も含め、投資家やアナリストと日々コミュニケーションを図っており、彼らの興味や自分たちの説明で不足している部分を確認しながらリポートを毎年進化させています。

北川ロシュとの親子上場に対する若干の懸念が以前の金融業界にはありましたが、今では払拭され、リポートでもWinWinの関係であること、貴社が少数株主を非常に大切にしていることが伝わってきます。

審査の過程で非常に注目され話題となったのが、「将来財務」に関する記述でした。ESG(環境・社会・企業統治)やサステナビリティー(持続可能性)の活動と、企業価値との関連性をどう表現するかは、各社とも大変苦労されている点です。貴社は「指標の関係性」というタイトルで中長期(4〜10年)、中期(2〜3年)、短期(1年)の時間軸ごとに指標を一覧化し、財務成果としてどの指標がどの成長性指標や収益性指標、効率性指標と関連するかを丁寧に表現されており、極めて分かりやすいですね。

奥田財務指標も非財務指標も当社では経営をモニタリングする指標として日常的に使っているもので、従来から開示してきたものです。ただ、今回は外部のステークホルダーに複雑な医薬品ビジネスを分かりやすく説明するために、時間概念を導入し、かなり練り込んで作り上げました。

北川貴社のパイプライン(新薬候補)の充実ぶりには目を見張るものがあります。私のようなオールドアナリストはパイプラインで製薬会社を評価してきましたが、パイプラインのよさを生み出す背景、非財務の開示基準が国際会計基準審議会においても議論されており、貴社の取り組みは画期的な典型例として紹介されるのではないかと思っています。

奥田ありがとうございます。2月に新成長戦略を公表しましたが、戦略が変わるとKPI(重要業績評価指標)も変わりますので、指標の関係性の図解も今後さらに進化させるべきものだと思っています。

アジャイル型の経営計画

フォト:北川 哲雄氏

北川 哲雄氏

北川新成長戦略「TOP I(トップアイ)2030」の概略を教えてください。

奥田2019年から21年までの中期経営計画「IBI 21」が、定量・定性両面で当初の目標を上回る成果を2年で達成できたため、1年前倒しで終了し、新成長戦略を策定しました。中心にあるのは、30年に中外製薬が到達すべきトップイノベーター像です(左下図参照)。「世界の患者さんが期待する」「世界の人財とプレーヤーを惹きつける」「世界のロールモデル」というあるべき姿を実現するためには何をすべきか。バックキャストして戦略を描きました。30年になっても、医薬品はやはり患者さんのためのソリューションの中核にあるだろうということで、「世界最高水準の創薬実現」と「先進的事業モデルの構築」を戦略の2本柱に掲げました。

この2本柱のキードライバーとなるのは、RED SHIFT(RED=研究と早期開発)、DX(デジタルトランスフォーメーション)、オープンイノベーションの3つです。世界最高水準の創薬力を得るためには、リソースを研究開発にシフトする必要があります。研究開発以外のビジネスプロセスは徹底的に生産性を上げる。そのためには先進的な事業モデルが必要で、デジタルを使い倒して効率化を進め、創薬だけではなくデジタル分野でもオープンなコラボレーションによってイノベーションを起こしていきたいと考えています。私自身、抗体医薬品の自社開発に10年以上携わっていたので、10年という区切りはバックキャストするのにちょうどいいと考えました。

北川他業界にも広めたい優れた理念に基づく戦略ですね。「創造で、想像を超える。」という「IBI 21」の理念を踏襲しつつ、今後は中期経営計画を廃止し、アジャイル(機動的)に戦略・計画を見直し更新する方針を掲げておられるのもインパクトがあります。

奥田サイエンスや技術の進化はスピードが速く、環境への取り組みも含め、固定ではなくアジャイルに見直す必要があります。3年、5年といったマイルストーンは置きながらも臨機応変に戦略を見直せるアジャイル型の経営計画を採用します。

北川最後に、CEO就任の抱負をお聞かせください。

奥田これまで中外の企業価値を飛躍的に成長させてきた名誉会長の永山には、ロシュとの戦略的アライアンスという先見の明がありました。それを実現して好業績をけん引してきた会長の小坂に引き続いてCEOの指名を受け、非常に光栄であると同時に重責に身の引き締まる思いです。まだまだ世界には病気で苦しんでいる患者さんが数多くおられます。その状況を一つ一つ解決することが中外製薬の使命であり、革新的な医薬品を連続的に創りたい。「TOP I 2030」を着実に実行していくことでイノベーションを創出し、社会のための価値創造を追求していきたいと思います。全社員と共に、新しい経営体制の下、まい進していきたいと考えています。

フォト:TOPi2030
第23回日経アニュアルリポートアウォード グランプリ受賞 中外製薬 アニュアルレポート2019
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