NIKKEI Annual Report Awards 2019

企画・制作:日本経済新聞社 イベント・企画ユニット

「日立 統合報告書2019」を振り返って

日立製作所 ブランド・コミュニケーション本部長 平野 泰男氏

原点の企業理念を再確認し、価値創造ストーリーを描く

フォト:平野 泰男氏

平野 泰男氏

Q:日立製作所はいつから統合報告書を作成しているのでしょうか。

平野当社は1970年代からアニュアルリポートを作成しており、海外の株主・投資家も意識した積極的な情報開示を実施してきました。統合報告書に切り替えたのは2016年からです。今回は4冊目になります。

Q:過去3年の統合報告書と今回とで編集方針に変化はあったのでしょうか。

平野今回の編集方針では、「自由演技」「統合感」「分かりやすさ、読み応え」の3点を追求しました。これまでの統合報告書は、財務情報中心のアニュアルリポートの構成ありきで作成していましたが、「統合報告書は自由演技であり、会社をどのように見せるか、もっとメッセージ性を強く訴求すべきだ」という経営幹部の意見を踏まえ、統合報告書とは何か、どうあるべきかという点を改めて熟考し、ゼロベースで全体を構築していきました。

また、当社は非常に幅広い事業を行っているため、セクターごとに事業の概要を記載しても統合感がなく、会社全体のめざす姿が見えづらくなることも課題でした。今回の報告書も100ページを超えてはいますが、過去のリポートに対する「読むのがしんどい」「読んでもよく分からない」というご批判を踏まえ、複雑な事業体を分かりやすく説明しつつ、全体としてまとまりがあり、かつ読み応えも感じられるようなリポートにしていこうと考えました。

昨年は「2021中期経営計画」の初年度だったこともあり、2021中計で掲げた「社会イノベーション事業のグローバルリーダーになる」というメッセージをリポートの根幹に据え、2021中計達成に向けた成長戦略と実現するための取り組みを価値創造ストーリーとして描いていくことにしました。

Q:根幹に据えられた2021中計のめざす姿とはどのようなものでしょうか。

平野日立がめざす姿として、「社会価値」「環境価値」「経済価値」の3つの価値の向上を掲げ、それを実現するため、「IT・エネルギー・インダストリー・モビリティ・ライフ」の5つのセクターを成長分野として位置付け、それぞれの価値創造ストーリーをKPIも含め紹介しています。

そして、この5セクターを横串で支え、デジタルイノベーションを加速するソリューションが「Lumada」※です。Lumadaは、先進的なデジタル技術を活用したソリューション、サービス、テクノロジーの総称であり、Lumadaの提供を通じて、人々のQoLの向上と顧客企業の価値の向上を実現していこうというのが2021中計のめざす姿です。これが、統合報告書の骨格にもなりました。

※「Lumada」
Lumadaの語源は、“illuminate(照らす・輝かせる)“+“data (データ)”です。「お客さまのたくさんのデータに光を当てて隠れた関係を解明していくことで、お客さまの事業に役立つ知見(insight)を得ることをめざす。」という思いを込めています。

統合報告書では創業から現在に至る日立製作所の成長の軌跡を最初にご紹介しました。日立は1910年に、久原鉱業所日立鉱山付属の機械修理工場として、茨城県日立市に小平浪平が創業した会社です。今年で創業110周年になります。当時、日本の産業は欧米の先進技術への依存度が高く、機械類も輸入製品が大半を占めていました。小平はそのような状況を憂い、日本の国力を高めるためには自分たちの技術力を磨かねばならぬと考え、「優れた自主技術・製品の開発を通じて社会に貢献する」ことを企業理念として掲げ、試行錯誤を重ねながら自社技術・製品の開発に注力しました。

創業の精神は、オープンな議論をして、決断に至れば共通の目標に向かって全員一致協力する「和」、責任転嫁せず、常に当事者意識を持って誠実にことにあたる「誠」、未知の領域に独創的に取り組もうとする、チャレンジし続ける「開拓者精神」にあります。統合報告書では2021中計を骨格に、改めてミッション(企業理念)やバリュー(日立創業の精神)という原点を紹介し、日立という会社がどのような会社であるかをイメージしてもらえるように工夫しました。日立がめざしている3つの価値の向上が、企業理念や創業時の精神とぶれておらず、芯が1本通っていることを読者に伝えたいと考えました。

社内横断チームが協力し合い、等身大の日立を描く

Q:今回の制作にあたっての具体的な取り組みについてお聞かせください。

フォト:平野 泰男氏

平野体制面での取り組みとしては、「経営幹部のコミット」「取締役会のサポート」「社内横断チームでの制作」の3つが挙げられます。

経営幹部のコミットメントでは、全体を通じてCSO(Chief Strategy Officer)の指導を何度も受けつつ、CFOやCHRO(Chief Human Resources Officer)など多数の幹部の意見を聞きながら作業を進めました。特に統合報告書全体について、日々変化する経済状況を踏まえ、CEOの経営の視点とズレが生じていないか、常に留意しながら原稿をまとめていきました。

取締役会からも熱心なサポートをいただきました。当社は11人の取締役会メンバー中8人が様々なバックグランドを持つ社外取締役であり、うち4人が外国籍というダイバーシティのあるガバナンス体制を敷いています。統合報告書の内容について取締役にもご意見をいただく、ということも大事なプロセスでした。そのため、社外取締役の方々に複数回にわたってお集まりいただき、統合報告書の骨子、構成について説明しましたが、議論が白熱し収束しないこともありました。

制作にあたっては、ブランド・コミュニケーション本部の広報・IR部が行いましたが、本社の経営企画、サステナビリティ、取締役・執行役などのエグゼクティブサポート、研究開発、財務、法務、情報セキュリティ、リスク管理などの各部門と密に連携しながら作成しました。準備段階では他部署の関係者も含めた勉強会を実施し、そもそも統合報告書とは何か、有価証券報告書などの法定開示報告書と何が違うのかなど基本的なことから勉強し直し、優れた統合報告書の事例についても学び、チーム全員の意識合わせを行いました。

Q:実際に制作を進めていくにあたり、特に重要視されたポイントはありましたか。

平野私たち編集サイドが大切にした点は2つあります。1つは、「等身大の日立を描く」ことです。高い評価を得た他社の報告書を拝見すると「素晴らしい経営だ」と感銘を受けるところが多々ありました。そうした経営と比べてたとえ見劣りしたとしても、ありのままの日立を描くことを心掛けました。2番目は、「価値創造ストーリー」「成長戦略(2021中計)」「持続的経営を支える経営基盤(ESGの取り組み)」の3つを骨子として全体をつなぐこと。最初の章で書いた内容がその後の章でどのように展開、深掘りされていくか全体の設計図を描き、設計と離れないようにチェックしながら骨子と関連付けながら個別の記述をまとめて統合感が出るようにしていきました。

Q:次号に向けての改善点などがあればお聞かせください。

平野これからの検討課題ではありますが、多方面からいただいているご意見も踏まえ、もっと読みやすく、かつマテリアリティはもっと深掘りするなど改善すべき事項への対応をきちんとしていきたいと考えています。

また、統合報告書を社内で活用している他社の話も聞いておりますので、より幅広い活用を検討していくつもりです。統合報告書の主要読者は機関投資家ではありますが、日立全社のことをコンパクトにまとめた資料でもあるので、ぜひ社員に活用してもらいたいと考えています。

資本市場がグローバルに拡大していくなか、幅広いステークホルダーに企業を正しく評価いただけるよう、開示の読者のニーズに常に気を配ることは、非常に重要であると考えています。一方、統合報告書で開示すべき事項が変化していく中で、「優れた自主技術・製品の開発を通じて社会に貢献する」という日立の変わらぬ原点を忘れず、ぶれずに伝えていくことが大切だと考えています。

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