NIKKEI Integrated Report Award 日経統合報告書アワード

企画・制作:日本経済新聞社 イベント・企画ユニット

2021年の審査講評

アニュアルリポートアウォード 2次審査講評

審査委員長

フォト:北川 哲雄氏

青山学院大学名誉教授・東京都立大学特任教授

北川 哲雄氏

白熱した議論経て受賞作決定

 今回の二次審査対象企業の統合報告書を改めて読んでみて数年前に比べ全社僅差の状態になっていると感じた。それ故に審査する側はより真剣にならざるを得なかった。審査委員会は当然白熱し昨年までの比べ長期間にならざるを得なかった。一方で審査する側の眼も肥えてきているなと感じた。書かれていることの論理的矛盾や過剰な意匠に対しこれまで以上に厳しい評価をするようになってきたと思う。論理的矛盾とは冒頭のCEOのメッセージと各部門長の説明に一貫性がない場合はすぐ見破られる。過剰な意匠とは日本企業の統合報告書の中にはデザイン性、効果的グラフ・写真、流行りのキャッチフレーズを多用して中身が乏しい場合があるという意味である。このあたりも一刀両断された。一方で不完全であるからこそ良き対話・論争の糸口になるのだという冷めた見方もあった。このあたりの判断は難しいが、読者の目が肥えてきたからこそ素朴さ、率直さが一層必要であると言えよう。

審査委員

フォト:井口 譲二氏

ニッセイアセット
マネジメント

チーフ・コーポレイト・
ガバナンス・オフィサー執行役員 統括部長
井口 譲二氏

ES賞・G賞の設置の意義

 今後10年で、法定の有価証券報告書(以下、有報)において、サステナビリティ情報を含む記述情報の開示が一段と進み、非財務情報においても、有報が企業報告の中心となる大きなパラダイム変化が生じると予想している。このような中、任意の統合報告書においては、全体のバランス以上に投資家に注目して欲しい事項に焦点を絞り、詳細に説明するなど、投資家の理解度向上に向けた開示の工夫が求められる。この点、グランプリーに加え、ES・Gの取り組みを評価する仕組みが設置された意義は大きいと考える。オムロンの企業理念経営と取締役会の実効性を実感させる開示や三井化学のESへの取り組みの開示は、誠に、第一回目の受賞に相応しい秀逸の開示であった。企業の方々には、ES賞・G賞を受賞した報告書を参考に、来年以降、一段の理解度向上に向けた報告書の作成に取り組んでいただければと思っている。

審査委員

フォト:今村 敏之氏

野村アセット
マネジメント

責任投資調査部長
今村 敏之氏

価値創造の独自の数値化努力を好感

 昨年までは良くも悪くも各社の構成や内容、表現方法が共通化されてきており、序列をつけるのが非常に困難になってきたと感じたが、今年は幾つかの会社が集団から飛び出した印象がある。情報開示は比較可能性と網羅性が重要であり、各社同じような手法を用いてきているのは好ましい部分もあるが、逆にオリジナリティが失われつつある傾向は危惧していた。今年はその中で数社、価値創造をあらゆる角度で数値化しようとする努力が見られた点は大きな変化である。まさに財務と非財務の統合である。細かなマテリアリティやKPIの設定と開示、それらがどのようにして将来のキャッシュフロー創出につながるのか、作成側の改善努力を感じる報告書が幾つかあった。一方、報告書の完成度は高いが数年前から変化を感じない会社もあった。報告書が単なるパーツごとの開示で終わっており、ビジョンやパーパス、次いでそれを実現するためのビジネスモデル、そして実行するための経営戦略があってはじめて重要な経営課題であるマテリアリティの解説、そしてKPIと役員報酬への連動という一連の流れをもっと意識する会社が増えることを期待したい。

審査委員

フォト:ダミー氏

ブラックロック・ジャパン

運用部門
インベストメント・
スチュワードシップ部長/ディレクター
江良 明嗣氏

有益で示唆に富む報告書増加

 投資先企業様との対話にあたり、非常に重要な情報源の一つとして統合報告書を積極的に活用しています。年を追うごとに各社の統合報告書は充実してきており、各企業に固有のパーパスやビジネスモデル、トップのメッセージを明示いただくなど独自性豊かな内容が増えていることも非常に良い傾向であると考えています。日経統合報告書アワードにエントリーいただいた統合報告書も、一つ一つ興味深い有益で示唆に富んだ内容であったため、画一的な比較評価は非常に難しいものでした。選定は容易ではなく、時に心苦しい局面もありましたが、審査員の方々との喧々諤々の議論を重ね、最終的な評価をさせていただきました。今回の経験を活かしつつ、今後も引き続き企業の皆様との真剣かつ建設的な対話を通じて、企業価値の向上への貢献とより良い情報開示のあり方について議論を深めていきたいと考えております。

審査委員

フォト:小澤 大二氏

インベスコ・アセット・マネジメント

取締役運用本部長 兼
チーフ・インベストメント・オフィサー
小澤 大二氏

投資家目線の価値向上記述で明暗

 今年の選考の上位に残った統合報告書は、企業価値拡大の持続性を、企業の存在意義(パーパス)と一貫性をもって経済的価値と社会的価値の両面からストーリーとして伝えている完成度の高いものが多くあった。また、経済的価値についても投資家の目線に合うものも増加した。そのような中で評価を分けたのは以下の3点であった。①企業の事業活動と密接したESGのマテリアリティを特定し、その取り組みを通じてSDGsが達成されるストーリーを具体的な事例を交えて伝えられたか。②TCFDの開示を含めた環境への取り組み、多様性を取り込んだ人的資本の活用の仕組みが具体的かつ納得的であるか。③コーポレートガバナンスの開示内容の充実度。特にガバナンスについての記述は、投資家からみて企業価値拡大の持続性を担保できるかが重要だ。CEOメッセージと同様に、持続的企業価値拡大への意気込みと経営への信頼性を投資家に感じさせるところであることを改めて認識して欲しい。

審査委員

フォト:加藤 正裕氏

三菱UFJ信託銀行

アセットマネジメント
事業部
責任投資ヘッド
加藤 正裕氏

読み応えある報告書増えた

 統合報告書は、長期投資で重要となる経営者の考え方や企業文化、社員の働き方など、「数字では見えない定性情報」も把握できる貴重な情報源の1つと位置付けています。近年、その内容が充実してきた中、今年はより一層、その内容が充実した飛躍の年となり、様々な工夫も散見されるなど、読み応えのある統合報告書が増えたと実感しています。特に、財務と非財務、過去、現在そして未来の結合性を巧みに表現した事例や、自社の強みをどのような戦略でアウトカムに結び付け、存在意義に近づけていくか、その価値創造プロセスを無駄なく表現した事例などは、とてもわかりやすく理解が進みました。何に取り組むか、その実績や方針などの「What」を中心に開示が充実してきた今、今後はどのように取り組んでいるのか、具体的な目標設定や、そこに至る、手段の具体化などの「How」の開示を拡充して頂くことで、その実態や、本気度、持続性への理解が更に進みます。これら開示の拡充を期待しています。

審査委員

フォト:岸上 恵子氏

日本公認会計士協会

元常務理事
(公認会計士)
岸上 恵子氏

困難な状況下でも質・量ともに充実

 気候変動等環境、人権等社会課題などのサスティナビリティや、人財・無形の資本を論理的に議論することが必要とされ、長引く新型コロナや激しい世界情勢変化と相まって、不確実かつ変化の激しい経営環境である。企業は長期的な価値創造の方向性を見出すと共に、短期では財務価値を担保しつつ予期しない変化にも迅速に対応することが求められる。困難な状況下、統合報告が数・質、ともに目ざましく充実したのは、そのような意識の反映であろう。財務報告書の記述情報や、ESG開示の議論の進展を踏まえ、任意開示の統合報告書ではどのような情報を伝えるべきか。想定利用者や統合報告書の位置づけを開示した企業も多い。他の情報開示とのすみ分けを考え、企業固有の経営上のマテリアリティと方向性を示し、エンゲージメントの基礎とすることが重要ではないか。それにより、統合思考が深化し、変化に迅速に対応でき、説明責任を果たすことができるように思う。

 

審査委員

フォト:三瓶 裕喜氏

アストナリング・
アドバイザー合同会社

代表
三瓶 裕喜氏

一層の切磋琢磨を期待

 統合報告普及初期の課題は、財務と非財務資本の活用・成果について単なるcombineではなくintegrateして価値創造プロセスを示すことと、今振り返れば比較的明確であった。その後、ESG情報の細分化、特に環境関連情報開示要求の高まりを受け、マテリアリティ特定プロセスの説明やTCFDシナリオ分析、スコープ3開示など、非財務情報開示の充実への企業の腐心が窺われる。そこへパーパス経営やステークホルダー資本主義などの提言も加わり、統合的思考で全体をまとめ上げるハードルは一層高まっている。こうした中で、伝えるべきメッセージの本質を抽出し、様々な環境変化にどう対応し将来性を確実にしていくのかを社員一人一人に語りかけるようにわかりやすく伝える“本物”の統合報告書があり印象深かった。人的資本への投資やKPIの考え方などの開示が新たな課題と考えられるが、受賞企業の中に複数の好事例が見られるので今後一層の切磋琢磨を期待したい。

審査委員

フォト:手塚 正彦氏

日本公認会計士協会

会長(公認会計士)
手塚 正彦氏

計画と実績の乖離分析に改善余地

 全般的にレベルが上がっていると感じた。価値創造ストーリーやESGへの取り組みを読者に伝えやすい構成がデファクト・スタンダード化しており、内容の比較可能性が増している。今後は、様式や構成ではなく、コンテンツの充実度、すなわち、経営の充実度が報告書の優劣を左右することになろう。いずれの報告書も見どころがあり評価に当たって大いに悩んだ。多くの企業で価値創造ストーリーに一貫性がある記載が行われていたことは高く評価する。一方で、マーケット規模や自社のポジションの記載、ビジネス戦略と人材戦略の一体性(欲しい人材像の明示)、ガバナンス上の課題の明示といった利用者にとって有用な情報の記載については、大いに改善の余地があると思う。中計の振り返りを記載する企業が増えていることは歓迎するが、計画と実績の重要な乖離の原因分析とそれに基づく課題設定に関する記述は十分ではないように思える。今後の改善に大いに期待する。

審査委員

フォト:寺沢 徹氏

アセットマネジメントOne

責任投資グループ長
寺沢 徹氏

人的資本活用の記述増を好感

 優秀賞に上がってきた統合報告の多くは、価値創造ストーリーが明確で、トップメッセージ・長期ビジョン・サステナビリティ・マテリアリティとも整合性がとれ芯がしっかりしているものが多く、さらに高いレベルでの標準装備良い意味での「型」が定まってきたと感じた。毎年のことではあるが格段にレベルが上がり、審査には大変悩まされた。今年の大きな特徴として人的資本活用について詳しい記載をする会社が増えてきた。具体的な企業の取組への反映、ガバナンスも含めた体制が機能するかなど価値創造ストーリーの確信を得る大きな材料となり、とても好ましい。また投資家のみならず様々なステークホルダーを意識し、Webでの開示を活用した分かりやすさや読みやすさの工夫が随所に見られる報告書が多かったのは印象的であった。発行会社と投資家をはじめとした多くのステークホルダーとの懸け橋になる統合報告書に向けて今後も更にレベルアップを期待したい。

審査委員

フォト:クリス・ビルバーン氏

ゴールドマン・サックス・
アセット・マネジメント

スチュワードシップ
責任推進部長
クリス・ビルバーン氏

ガバナンス開示の重要性が徐々に浸透

 委員会の活動や役員報酬制度などを含むガバナンスの開示が徐々に増えてきている。株主や幅広いステークホルダーに対し価値創造モデルを通じて自社の強みや価値提供を明確にすることに多大な努力をされているように感じた。経営トップのメッセージでは経営戦略の文脈でサステナビリティやマテリアリティについて言及されている報告書が多く見られるようになった。ESG目標の開示も増えており、将来のさらなる改善につながる開示の土台を築かれている。今後もダイバーシティや気候変動対応など、企業にとって重要なESGの活動や長期目標が充実化されていくことを期待したい。

審査委員

フォト:堀井 浩之氏

三井住友トラスト・
アセットマネジメント

常務執行役員
堀井 浩之氏

更なる内容の高度化、洗練化に期待

 審査に当たっては、①経営トップや経営層が自社の課題をどう認識しているか、②価値創造の源泉は何か、③サステナブル経営の視点が十分に記載されているか、④全体の構成や読みやすさに工夫を凝らしているか、などを主な評価ポイントとして、業績と価値創造と統合報告書の良し悪しは別物であるというスタンス、統合報告書そのものの出来栄えを評価するスタンスで臨んだ。さすがに最終審査会まで残る統合報告書はどれもレベルが高く、各々の企業がオリジナリティをもって記載していたのが印象的だった。統合報告書を幾年も作成してきた企業は練れた紙面構成で伝えたい内容もしっかりしており、年々改良を重ねてきた年輪を感じた。一方、まだ作成回数が少ない企業の中には、改善余地を感じるものの心底訴求したい内容をしっかりと記載している報告書もあった。来年度にかけて更なる内容の高度化、洗練化に期待したい。

審査委員

フォト:三和 裕美子氏

明治大学商学部

教授
三和 裕美子氏

入賞作参考に価値創造メッセージを

 私は今回初めて審査員を務めさせていただきました。企業評価の価値尺度において経済的付加価値だけではなく、サステナビリティ、感性の重視、人と人とのつながりや絆、共感性が価値として重視される時代において、今回入賞されました企業の統合報告書は、印象深い取り組みをされていました。統合報告書においては、財務情報と非財務情報を単に開示するだけなく、それらが有機的に統合し、企業価値創造に向けてバックキャスティングな思考で取り組む姿勢が具体的に示されていることが重要です。また、企業理念、パーパスについて、トップメッセージや企業全体の取り組み、人的資本の育成にどのように活かされているか、さらに環境への取り組み、具体的にはTCFD対応などについても重要な要素です。今回上位入賞企業は、これらの点において特に優れていました。これらの企業の取り組みを参考に、多くの日本企業が統合的な価値創造のメッセージを示してくれることを期待しています。

審査委員

フォト:森 洋一氏

日本公認会計士協会

研究員(公認会計士)
森 洋一氏

攻めと守りの報告が充実

 統合報告実務の広がりとレベルアップを実感した審査であった。最終審査の対象となったレポートでは、自社の価値創造ストーリー伝達に工夫を凝らすとともに、ガバナンス、リスク、指標等によって情報利用者の信頼を得るという、報告における「攻め」と「守り」の両サイドにおいて高品質のレポーティングが実践されている。サステナビリティ報告に関するグローバル基準策定が進むなか、実務においてもフレームワークやスタンダードの活用も広がり、TCFD提言に基づく気候開示も厚みを増している。将来に向けた企業の方向性だけでなく、エビデンスを担保した分析や実績の報告が重要性を増しており、開示情報量が増すことは不可避である。こうした開示環境において、マテリアリティにもとづく統合報告書における「情報の選択と集中」、報告書内外の「情報の体系化」、そして「情報間の結合性確保」が、報告書のクオリティを左右する。ますますの発展を期待したい。

審査委員

フォト:小平 龍四郎

日本経済新聞社

論説委員兼編集委員
小平 龍四郎

情報開示は経営戦略

 情報開示の巧拙が、企業価値に瞬時に影響を与える時代だと認識している。日本企業にとって開示は長らく義務だったが、市場経済のなかでは経営戦略にほかならない。五輪の競技に例えるなら、規定演技の正確さだけでなく、自由演技の個性も問われる。受賞対象となった企業の統合報告書は、どれも規定演技はほぼ満点に近い。差がついたのは自由演技のプログラム構成のちょっとした工夫や、意図せぬミスである。来年以降の演技がさらに磨かれたものになることは、確実だろう。直接の審査対象は「統合報告書」という1冊の独立した読み物だが、それを補完する「ESGデータ集」や「環境報告書」などの開示書類も参考にした。また、パソコンなどの画面上で読まれることを前提に、ダウンロードのしやすさや参照リンクの張り方なども加点ポイントとした。いずれ、CEOメッセージの動画や、ESG情報を加工できるインタラクティブな図表なども登場してくるだろう。

アニュアルリポートアウォード 1次審査員一覧

(社名五十音順、株式会社・敬称は省略)

企業・団体

アセットマネジメントOne
いちごアセットマネジメント
いちよしアセットマネジメント
インフラ・リサーチ&アドバイザーズ
インベスコ・アセット・マネジメント
エース経済研究所
MU投資顧問
エンジェルジャパン・アセットマネジメント
機関投資家協働対話フォーラム
ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント
コモンズ投信
SOMPOアセットマネジメント
第一生命保険
大和アセットマネジメント
大和証券
T&Dアセットマネジメント
東海東京調査センター
東京海上アセットマネジメント
日興アセットマネジメント
ニッセイアセットマネジメント

野村アセットマネジメント
野村総合研究所
PGIMジャパン
BJリサーチ&マネジメント
ピムコジャパンリミテッド
富国生命投資顧問
ブラックロック・ジャパン
PayPayアセットマネジメント
みずほ証券
三井住友DSアセットマネジメント
三井住友トラスト・アセットマネジメント
三菱UFJ国際投信
三菱UFJ信託銀行
三菱総合研究所
山内コアバリューデザイン合同会社
ユナイテッド・マネージャーズ・ジャパン
ラザード・ジャパン・アセット・マネージメント
りそなアセットマネジメント
レオス・キャピタルワークス

個人

東京都立大学 経済経営学部 教授 浅野 敬志

法政大学大学院 政策創造研究科 教授 井上 善海

東北学院大学 経営学部 准教授 古賀 裕也

東京国際大学 言語コミュニケーション学部 准教授 櫻井 功男

慶應義塾大学 名誉教授/東京国際大学 学長 塩澤 修平

法政大学 人間環境学部 特任准教授 竹原 正篤

一橋大学大学院 経営管理研究科 教授 円谷 昭一

法政大学 人間環境学部 教授 長谷川 直哉

Sansan シニアアドバイザー 安井 肇

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