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LECTURE186  2018 February 

女性の健康週間(1/2)
毎年3月1~8日は「女性の健康週間」。日本産科婦人科学会と日本産婦人科医会は、この時期に「女性の生涯の健康」をサポートするための様々な取り組みを行っています。今回、丸の内キャリア塾はこの取り組みを応援する特集を4日間にわたり連載しました。

【1】産婦人科と上手に付き合い 自らの人生のかじ取りを

北脇城先生
北脇城先生
公益社団法人 日本産科婦人科学会常務理事・女性ヘルスケア委員会委員長
京都府立医科大学附属病院長・産婦人科教授
1回目は京都府立医科大学附属病院長の北脇城先生に、女性の健康のための予防や検診の重要性と、産婦人科のかかりつけ医を持つことのメリットについて伺いました。

ステージごとに異なるリスク 女性疾患の若年化に注意

  ――女性の健康について考えるとき、男性とは異なる点とはどんなものでしょう。
 女性の場合、その一生のサイクルにおける、エストロゲンという女性ホルモンの変動に注目することが重要です。初経から思春期、妊娠・分娩に適した性成熟期、そして閉経前後の更年期、最後に老年期という順にエストロゲンの変動により女性のライフステージは大きく変化します。また女性は、各ステージごとに発生しやすい疾患が異なります。思春期の場合、初期には月経不順になることがよくありますが、放置すると将来不妊症になる場合があります。また、月経痛が強い場合は子宮内膜症の可能性もあるので注意が必要です。
 性成熟期の20~30代にかけては、子宮内膜症や子宮頸がん、乳がんなどの発生リスクが高まります。以前はもう少し年齢を重ねた方が多くかかる疾患でしたが、近年は若年化が進んでいます。また妊娠をきっかけに高血圧や糖尿病になったりする方も多いのですが、放置すると本格的な高血圧や糖尿病になり、命に関わることもあります。
 閉経前後の更年期には、ほてりや発汗などの特有の症状が表れることがありますが、より心配なのは「うつ」のような状態に陥る場合があることです。もともと精神状態が不安定な方は、閉経前後に症状が悪化する恐れもあります。またエストロゲンの急激な減少により動脈硬化や骨粗しょう症、脂質異常なども起こりやすくなります。以降の長い老年期を健やかに過ごすためにも、更年期障害があれば積極的に治療したほうが女性の生活の質(QOL)を高めます。

 ――子宮内膜症などが若年化しているのはなぜでしょう。
 生活環境の変化もありますが、生理回数の増加が一つの原因と考えられます。一昔前の女性は現代に比べ早婚で多産でした。妊娠期間中や授乳中は生理がありませんが、晩婚で出産機会も少なくなった現代では、昔に比べ生涯の生理回数が倍くらい多い場合もあります。生理の回数が多いと増える病気の一つが子宮内膜症です。子宮内膜症は生理痛だけでなく、慢性的な腹痛も引き起こし、また不妊症や卵巣がんなどにつながることもあります。近年の女性の晩婚化、出産数の減少は人類数十万年の歴史の中では特異的なことであり、医学的には今までにない状況にあるといえるでしょう。

何でも気軽に相談できる かかりつけ医を持つ

 ――女性の健康を取り巻く環境の変化に合わせ、産婦人科のあり方にも変化が求められそうですね。
 そうですね。これまで産婦人科といえば、妊娠や出産の折だけ、または体調が悪くならなければ行かないような敷居の高さがありました。しかし女性の社会進出やライフスタイルの変化が続く中、女性の健康を日常的に見守る必要性が増しています。その中で産婦人科の重要な役割として検診と予防が挙げられます。
 ご説明したように女性にはライフステージごとにリスクの高い疾患があり、女性の疾患を時間軸の中で予防的観点から捉えることが現代の産婦人科の主流です。何か重大な症状があって初めて産婦人科に行くのではやはり遅い場合がありますので、欠かさず検診を受けたり、例えば生理が不順とか重いと感じた場合なども気軽にかかっていただくことが予防につながります。そんなとき、日ごろから何でも相談できる産婦人科の「かかりつけ医」を持つことをお勧めします。

  ――日常的に患者を担当するかかりつけ医のメリットは。
 その患者さんの過去の健康状態や普段のライフスタイルなどを把握していれば、予防や治療もしやすくなりますし、例えば不妊治療などについてもその患者さんにあったアドバイスができると思います。また最近は、ネットなどを中心に不正確な情報がたくさん出回り、それに振り回される人も多いようです。そんなときにもかかりつけ医がいれば、不安があったら何でも相談できますし、心強いはずです。
 近年の女性の晩婚化、出産数の減少は女性の社会進出とも密接に関係しています。妊娠・出産に適した性成熟期は、女性にとってキャリア形成にも大事な時期ですが、どちらかを選ぶという問題でもありません。女性が自分自身の健康に理解を深め、積極的に行動することで、人生をうまくコントロールすることができるのではと考えます。

【2】20〜30代女性の健康管理

対馬ルリ子先生
対馬ルリ子先生
医療法人社団ウィミンズ・ウェルネス 理事長 対馬ルリ子女性ライフクリニック銀座 院長
 
女性にとって20~30代は、仕事においても将来の人生設計においても非常に大事な時期ですが、忙しさで健康面の管理がおろそかになりがち。「女性の健康週間」を応援する本特集、2回目はこの時期の心や体の健康を守る産婦人科医との付き合いについて、また生活の質を高めるという低用量ピルの活用などについて、医療法人社団ウィミンズ・ウェルネス理事長で対馬ルリ子女性ライフクリニック銀座院長の対馬ルリ子先生に伺いました。

異常を感じたら気軽に婦人科に相談を

 ――対馬先生のクリニックはどんな患者が多いのですか。
 検診を受ける方が多いです。当院は乳がん検診も含めた総合的な女性ドックを行っており、毎年定期的に受診する方もいます。症状は、20~30代だと月経痛、月経不順、月経前症候群(PMS)といった月経関連のものが多いです。そのほか、なぜかイライラする、眠れない、だるい、疲れやすい、関節が痛い、肌が荒れるなど、複合的な失調を訴える方もいます。背景にはストレスがあることが多いので、体の検査と同時にカウンセリングも行っています。不妊の相談も受けています。

――20~30代の女性が健康面で特に気を付けることは何でしょうか。
 20~30代は体力も気力もあり、仕事や妊娠・出産においても、周囲から期待される年代です。ただ、今の女性は忙しく、何事にも真面目に取り組むあまりに健康トラブルになってしまう方がいます。くるべき時期に月経がきていない、あるいは逆に月経痛やPMSがつらいのに我慢して仕事を続けている人もいます。しかしそれでは仕事のパフォーマンスが低下して本人も不本意でしょうし、医療的には子宮内膜症、子宮筋腫、卵巣のう腫などの重大な疾患が原因の場合もあります。異常を感じたら、気軽に婦人科に相談していただきたいです。

男性も女性の体を知り協力し合う社会を

――月経関連の疾患では、ピルが治療に使われるのですか。
ピルは1960年代に避妊薬として開発され、その後低用量ピルが開発されたことで、月経痛、過多月経、子宮内膜症の治療やPMSの緩和、月経周期のコントロールなどにも広く用いられるようになり、現在は一部の低用量ピルと同じ成分を含む薬剤が月経痛に対し保険適用となっています。日本ではいまだに避妊薬のイメージが強いですが、欧米では女性の生活の質を高めるための薬と認識されるようになっています。

 ――月経の時期をずらすことができるのですね。
 月経が、大切な仕事や、学生なら試験や部活の試合などと重なると、十分な力を発揮できないことがあります。そのために頑張ってきたのに、もったいないことです。欧米のトップクラスの女性アスリートは、8割以上が服用しているといわれています。ただ服用には、他の薬との飲み合わせの問題や、他の病気があった場合は使用できないといった適応基準があるので、医師と相談してください。安全に使えば、女性の可能性を広げてくれる薬だと思います。

 ――働く女性へのメッセージをお願いします。
 女性が仕事をすることが当然の時代になりましたが、そろそろ子供をと思ったときに年齢的に遅かったり、あるいは子宮の病気が進んでいて出産できなかったりして後悔する人がいます。若いときから妊娠・出産に関する正しい知識を持っていれば、将来の人生のビジョンを描いておくことができたのにと、残念に思います。月経が始まると女性ホルモンの働きが活発になり、月経トラブルが起こる可能性もあるので、本来なら10代後半あたりから婦人科をかかりつけにして、いろいろなことを相談していただきたいです。20歳からは子宮頸がん検診が始まるので、こういった機会を利用して、子宮や卵巣に他の病気がないかのチェックもできます。人生のさまざまなステージで婦人科に相談してもらえれば、人生計画の修正も可能です。そうすることで、仕事か子供かどちらかを選択するのではなく、仕事も子供もほしいものはすべて実現できるのです。
ただし育児に手がかかるのは事実なので、パートナーや家族の理解と協力が必要でしょう。職場の上司や同僚の理解も必要です。男性にも女性の体のことを知っていただき、協力し合って多様な生き方が尊重される社会になることを望みます。

後半へ