LECTURE187 2018 March
【インタビュー】
ZUU 代表取締役社長 冨田和成さん
仕事に優先順位つけて 大切なことに時間注ぐ
人生の経営者はその人自身。仕事も家事も優先順位をつけて、一番大切なことに時間を注いで――。資産運用に関する金融情報サイトを運営する起業家の冨田さんに、時間に追われがちな働く女性へのアドバイスを聞いた。
夢・目標に向かう強い思い 100%の努力につながる
――経営者の視点からみて、どのようなビジネスパーソンが理想でしょうか。
冨田 会社に経営者がいるように、個人の人生も一人ひとりが経営しています。人生において、経営者はその人自身でなければならない。一人ひとりがより良い人生の経営者になってくれたらいいなと思っています。
企業でいうビジョンやミッションが、個人の夢や目標にあたるものだと思います。当社のミッションステートメントに「夢や目標に一人ひとりが向かっていく」というものがあります。私自身の人生で、夢や目標をもって没頭していけたら最高ですし、社員にもそうあってほしいと伝え続けています。
私は新卒で入社した証券会社では「1年目でトップセールスになる」ことを目指していました。最初の2、3カ月は下から数えたほうが早いくらいの状況でしたが、1年後には新規開拓のトップセールスになることができました。土日でも朝から晩まで仕事のことを考えていましたし、どんなに遅く帰っても毎日の自分の行動の振り返りをしたり、計画を立てたりしながらPDCA(P=計画、D=実行、C=検証、A=調整)を繰り返してきました。目標に向かって100%やりきるというのは、簡単なことではないですが、自分を突き動かす夢、目標があれば強い思いをもって行動に移すことができると考えています。
小学3年から大学4年までサッカーを続けてきたのですが、実はサッカーもPDCAの繰り返しです。プレーでミスするとどうやって直したらいいのだろう、試合で最高のパフォーマンスを出すにはどういう練習をしたらいいのだろう、などノートに克明につけ、自分のプレーや行動を振り返っていました。中学1年の時に「サッカーノートをつけろ」とチームで言われたことがきっかけで、大学までずっと続けていました。サッカーで学んだことも自分の考え方のベースを支えています。
自分のマネジメントが重要 育児もキャリアの糧に
――日本でも女性の社会進出が進んでいます。一方でワークライフバランスや働き方に悩む人も少なくありません。
冨田 私は日本と海外の両方で働いてきたので、その経験を基に私の考えを共有します。私が海外で最初にグローバルエリートといわれる人たちに出会ったのは2009年、出張先のニューヨークです。早朝、仕事前にセントラルパークを走っている人をたくさん見ました。皆、本格的なスポーツウエアを身につけ、真剣そのものです。ウォール街で働く金融マンに聞くと「体をはじめ自分のマネジメントができない人に、仕事のマネジメントができるわけがないから」と言われたことが今でも忘れられません。これは自分も含め、すべての人に当てはまることだと思いました。
当社のシンガポールにある現地法人には社員が5人いますが、全員女性です。優秀な人を採用したら、結果としてそうなったのですが、背景にはシンガポールでは女性の就業率が高く、基本的に子どもが生まれた後に仕事に復帰する、という環境があります。家事や子育ての経験はマネジメントにつながる貴重な機会だと思います。日本も今後ますます女性が活躍する時代になるでしょう。家庭での時間が、キャリアにプラスになると前向きに考えてほしいです。
正しい優先順位づけが重要 仕事の速さは時間配分から
――限られた時間の中で、成果を上げるにはどうしたらいいですか。
冨田 経済もビジネスも、合理性と感情的なものがバランスをとりながら成長していきます。優秀な経営者やビジネスパーソンの中には、ビジネスで決断する時に「最後はノリ、直感だよ」と言う人もいます。これは適当に仕事をしているというわけではありません。ノリや直感という言葉に代表される経験則や感覚が研ぎ澄まされている人が、それで決断した方が実は合理的でスピードが速い、ということを表現しているのです。過去の経験から積み上げた蓄積が答えを導くのです。
仕事の生産性を高めるためには決断の速さに加えて、タイムマネジメントが鍵になります。私は「時間のPDCA」と呼んでいます。
PDCAを回していく中で、課題と解決策、それを実行するための具体的なタスクを考えますが、その際に課題解決策やタスクをどんどん思いついてしまい、新しいタスクに追われ、既存の仕事の処理ができなくなるということがあります。このような状況は、危機意識や問題意識が高い、優秀な人に多いようです。時間がなければいくら課題が整理されていても実行に移すことは難しくなります。「重要なことに多くの時間を使う」ために、タスクの優先順位を考えることが大切です。
タイムマネジメントというと作業時間を短縮することに意識が向きがちですが、私は①捨てる②入れ替える③圧縮する、の3つの方法を使ったタイムマネジメントを提唱しています。まずは現状抱えているタスクを整理し、その時間配分を把握した上で無駄なものを取捨選択します。その後マトリクスを使い、作業の緊急・重要度を比較して取り掛かる優先順位を決めます(上図参照)。そして最後に、ルーティンワークを見直すなどして、時間の圧縮に取り掛かります。
仕事のゴールはタスクをすべてこなすことではなく、成果を上げることです。タイムマネジメントを活用して、いかに最短距離でゴールを目指していくかにフォーカスすれば、おのずと仕事の生産性を高めることにつながります。
――プライベートでも時間の使い方は重要な課題です。
冨田 タイムマネジメントはビジネスだけでなく、プライベートでも通用します。現在は家事代行サービスやフードデリバリーなど、家事をアウトソーシングできる手段が増えています。もちろん、お金はかかりますが、今まで家事に多くとられていた時間をかなり削減できるようになりました。これは大きなパラダイムシフトです。働いてお金を稼いで時間を買うことは、子育てや趣味など自分の中でより優先順位の高いことに多くの時間を使えることにつながります。
ワークライフバランスというと、仕事の時間を減らして家事に時間を費やすという考え方が主流です。しかし、得た収入で「何ものにも代え難い」時間を買うという新しい流れができるかもしれないですね。
冨田和成さん (とみた・かずまさ)さん
ZUU 代表取締役社長
1982年神奈川県生まれ。2006年一橋大学経済学部卒、野村証券入社。支店営業、本社プライベートバンク部門を経て、シンガポール、タイに駐在。13年3月に同社を退職、4月にZUUを創業。著書「大富豪が実践しているお金の哲学」「鬼速PDCA」など。