LECTURE190 2018 June
【インタビュー】
Waris ワークアゲイン事業統括 Waris Innovation Hubプロデューサー 小崎 亜依子さん
女性の特性生かせる 新しいリーダー像で変革
スイスのIMDビジネススクールのギンカ・トーゲル教授が著した『女性が管理職になったら読む本』(日本経済新聞出版社)の翻訳・構成に携わった小崎亜依子さん。パートナーの留学を機に自らも留学、4年間の専業主婦期間を経て復職し、現在は女性やワーキングマザーの支援に注力している。これまでの活動や同書翻訳作業を通じて得た知見から、働く女性たちへアドバイスしてもらった。
無意識バイアスが阻む 女性活躍の機運
――現在の仕事内容は。
小崎 文系総合職フリーランス女性の活躍の場の創出や、子育てなどで離職した女性がキャリアを積めるような復職支援などをしています。
――ダイバーシティーの機運が高まる中、女性管理職を増やす意義は。
小崎 多様な視点が得られ、これまでにない新しいやり方ができるようになると思います。これまでは管理職になれるかどうかの大きな指標は、能力などではなく長時間労働に対する耐性があるかどうかだったと言っても過言ではなく、育児や介護責任を負う女性は管理職になりにくい傾向がありました。性を問わず、育児・介護責任をしっかり背負っている人が意思決定の場に進むことで、女性を含む多くの人が働きやすい会社に変わっていくことにつながる。そこが一番大きいです。
――管理職になりたくないと考える女性も多いと聞きます。
小崎 それは無意識バイアス(無意識下での偏見)に起因するとトーゲル教授は分析しています。米ラトガース大学のローリー・A・ラドマン教授らの研究によると、「男性が上、女性が下という暗黙のルールが私たちの中に存在し、それと食い違うときに反発が起きる」といわれています。無意識に心に刷り込まれた暗黙のルールは人の評価にも影響を与えます。米エール大学のモス=ラキュシン博士らは、ジョン(男性)とジェニファー(女性)という名前しか違いのない同じプロフィルに対して評価がどのくらい異なるかアンケート調査をしました。その結果、能力・適性、年収提示額等、すべての項目でジョンの方が高い評価を得ています。
一般的に、男性と女性では望ましいとされる特性は異なります。男性らしい特性には「好戦的」「キャリア志向」「野心的」「ハードワーク」が挙げられ、それがそのままリーダーに求められる特性になっています。一方で女性は「優しい」「明るく元気」「周囲への気遣い」「子どもへの関心が高い」という特性が望ましいとされます。
女性がリーダーシップを発揮して上に立とうとすると、イメージと真逆の行動をすることになり、「生意気だ」と不当な批判にさらされたりする。こういうことが女性管理職の割合が低い原因の一つといわれています。
女性が管理職になりたがらない理由は個人の問題ではなく、長時間労働の問題、女性が自信を持てない背景、ロールモデルがいないなど上に立つ人と自分を同一視できない背景があることを理解すべきです。
達成したいことにフォーカス 自主性を促進する役割へ
――リーダーシップのあり方を変える必要があると。
小崎 リーダーシップには大きく分けて、報酬と服従を交換する「交換型」と相手の内面にある価値観を変革する「変革型」という対になる概念があります。前者はうまくいったら褒美、失敗したら罰を与える従来タイプのリーダー。後者はその人が本当に達成したいことにフォーカスし、自主的に動くのを促すタイプです。
変革型リーダーシップに必要な要素は、信頼を得る、コーチングをするといった、女性が得意とするものが多い。女性の特性を前面に出して、新しいタイプのリーダーになってもらう方が、自由な発想を生かした組織のイノベーションに役に立つのではないかというのがトーゲル教授のメッセージです。
――女性が自分らしさを存分に出すということですか。
小崎 ありのままで何も努力しなくていいのではありません。何をしたいか、どういう世界を創りたいか、そのためにどういう組織にするか、最終的に目指すことに対して自分の価値観を決して曲げず、そこに行く過程で苦手なことは克服していくべきでしょう。
多くの事例見て 〝いいとこ取り〟を
――どこにロールモデルを求めたらいいですか。
小崎 仕事で輝いている女性が必ずしも自分と環境や条件が同じわけではないでしょう。多くの事例から、仕事や子育ての仕方、ワークライフバランスなど、自分に合う部分だけを〝いいとこ取り〟すればいいのではないでしょうか。
トーゲル教授は組織における女性の割合が35%を超えてこないと、女性の意見が〝個〟としてとらえられないと強調しています。バックオフィスでなくフロント業務にもどんどん女性を配属していくことが求められてくると思います。時間外の勤務や接待ができないから難しいという声もありますが、変えようとしなければ状況は変わりません。トップ主導で商習慣やビジネススタイルを変え、残業や夜の付き合いをやめる姿勢を打ち出した事例も出ています。家族と過ごしながら働くことを優先する人が増えている今、こうした決断はブランディングに直結し優秀な人を集めることにもつながってくると思います。
――最後に働く女性や復職を目指す女性へアドバイスを。
小崎 自分の感覚や直感を大切にして、働き方、仕事のやり方も自分がちょっと違和感を覚える部分は変えていった方が、結果的にいい仕事ができるようになると思います。
いまお仕事に就いていない方も人手不足の折、再びキャリアを築いていくチャンスは多いです。希望すれば何歳からでもやり直せる時代なので、ぜひチャレンジしていただきたいですね。
講師: 小崎 亜依子(こざき・あいこ)さん
Waris ワークアゲイン事業統括 Waris Innovation Hubプロデューサー
1996年慶應義塾大学総合政策学部卒業。2002年ピッツバーグ大学公共政策国際関係大学院修了。野村アセットマネジメント、日本総合研究所を経て15年よりWarisでフレキシブルに働きたいプロフェッショナルな女性の支援と新しい働き方の提案を行う。