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LECTURE191  2018 August


埋もれがちな女性の潜在能力を地方創生に生かす

平舘三木さん

女性をターゲットにしたマーケティングが専門で、地域を盛り上げるための様々な事業に取り組むプロジェクト・日本流行部を主催する平舘美木さん。地方創生に女性の力はどう生かされるのか、話を聞いた。

――女性にもまちおこしに関わるよう呼びかけていますね。
 平舘 地域の魅力を発信し、観光や物産販売につなげるには、家計を握ることが多い女性にも魅力を感じてもらうことが重要です。住宅や車などを購入する際、女性の意見が重要視されることは多いですよね。
 しかし、地方では女性が持てる力を発揮できる場が少ないのが現実です。青年会議所などのまちおこしでもこれまでは男性が中心で、女性には男性のサポートが求められる場合が多かったのです。

やりたい気持ちがあってもステージがない


  ――女性をターゲットにしたマーケティングに取り組んだきっかけは?
 平舘 2002年に起業、約5000人の女性を組織して、化粧品、食品、飲料、アパレル、家電、サービスなど様々な大手有名企業の商品開発やプロモーションに関わってきました。一般職のOLは、時間もあり、グルメやファッションなどに対する情報収集のアンテナが高い。そんな女性の情報収集力・目利きの力を集めて、企業のマーケティングに活用しました。
 時を経て、トレンドに敏感だった20代のカリスマOLたちは結婚し、夫の転勤で地方都市でも暮らすようになりました。
 30〜40代になった彼女たちは、かつての「トレンドセッター」ではなく、社会貢献を通じて自己実現を求めるようになります。しかし、現実には活躍する場が見つからない。「やりたい気持ちがあってもステージがない」というのです。
 そんなときに地方創生の動きが高まってきました。より多くの人に魅力を感じてもらえるまちおこしには、女性の視点が重要なはずだと考え、日本流行部(はやりぶ)を立ち上げました。



男性からも「リーダーは女性がいい」との声


――実際にはどのような取り組みを?  平舘 福井県若狭湾沿岸地域の活性化事業を手がけていて、多くの女性を積極的にプロジェクトに取り込んでいます。  一方で、現実には決裁権を持っているのは、多くは男性です。  情報収集力・発信力に富む女性がその力を発揮して、それを男性がサポート、アイデアの実現を後押しする。スポットライトは女性に当たるようにして、男性が後ろを固めていくことで、プロジェクトがよりスムーズに進むようになりました。男性メンバーからも「リーダーは女性がいい」との声が上がったほどです。

「ライバル」と思わせない行動を心がける


――平舘さんが心がけていることは?
 平舘 プロジェクトをうまく機能させていくためには、リーダーは固い人でも柔らかすぎる人でもだめなんです。男性寄りでも女性寄りでもだめ。私の役割としては、女性たちの立ち位置や潜在能力を男性たちに伝えることが重要だと考えています。
 これは広い意味で、管理職(リーダー)にも当てはまることなのですが、ポイントは、女性たちの意見は決して否定しないようにすること。当たり前だと思ったことも「そうだね」とうなずきながら聞くようにするのです。そうすることで、女性が男性に臆することなく力を発揮し、男性のサポートも得やすくなるというわけです。  そのためには、女性にも男性にも「ライバル」と思わせない行動を心がけています。女性の中では女性たちの願いをかなえてくれる「理解ある王子様」の立場で行動し、男性にもはっきりと意見を言います。かといって男性の立場を脅かすようなこともしません。

ワークショップの様子

点ではなく線や面で地域の魅力を発信


――今後の目標は?
 平舘 今注目しているのは「観光大使」などとしてたすきをかけ、イベントなどの撮影モデルとして活躍している女性たちです。情報発信力に優れ、コミュニケーション能力も高い。しかし、マスコット的な役割を期待されるだけでは余りにももったいない。
 彼女たちにマーケティングを教え、文章力を磨き、より情報発信力を高めれば、大いに戦力になるはずと考えています。  福井県のプロジェクトでは、これまでライバル関係にあった隣り合うまち同士の連携にも取り組んでいます。わがまちの魅力を発信する際に、必ず隣のまちの魅力も加えるようにしました。隣のまちの魅力を肌で感じることでライバル心が高まり、切磋琢磨(せっさたくま)につながる。そうすることで、情報を受け取る側が、点ではなく線や面で地域を見るようになり、より広域の魅力発信につながっていくと考えています。



講師: 平舘美木(ひらだて・みき)さん
キラキラリーグ 代表取締役

短大卒業後、OLから雑誌編集者に。2002年にF1層(20〜34歳の女性)をターゲットとするマーケティング会社有限会社ヒメクラブ(のちに株式会社Hime&Company)を起業。現在は「コミュニティー媒体構築と運営」「女性マーケティング」「クチコミ創造を促すユニークな企画」をキーワードに、地方創生、戦略PR、女性活用、花業界の活性化などの事業を展開。