LECTURE197 2019 February
女性の健康週間(1/2)
毎年3月1~8日は「女性の健康週間」。日本産科婦人科学会と日本産婦人科医会は、この時期に「女性の生涯の健康」をサポートするための様々な取り組みを行っています。今回、丸の内キャリア塾はこの取り組みを応援する特集を4日間にわたり掲載しました。
【1】「更年期は怖くない 適切な治療で 仕事も生活も生き生きと
(右)野田 聖子氏 衆議院議員
(左)大須賀 穣先生 東京大学 大学院医学系研究科 産婦人科学講座教授
1回目は衆議院議員の野田聖子氏と東京大学大学院医学系研究科産婦人科学講座教授の大須賀穣先生が女性の更年期やその向き合い方について語り合いました。
女性ホルモンが低下 心身に様々な症状 個人差も
――40~50代の女性の体に起こる変化について教えてください。
大須賀 女性は40代半ばごろから卵巣機能が徐々に低下し、平均50歳くらいで閉経します。閉経をはさんだ前後5年、トータル10年ぐらいを更年期と呼びます。卵巣機能の低下に伴い、女性ホルモンであるエストロゲンも低下します。それが女性の体に様々な影響を及ぼすのが、いわゆる更年期障害です。ほてりやのぼせ、急な発汗などがよく知られている症状ですが、それ以外にも子宮や腟(ちつ)など生殖系の臓器や、骨、血管、神経、皮膚、さらにはメンタル面などにも影響を及ぼします。
野田 私の場合は少し特殊な例になりますが、不妊治療の一環として40歳ごろからエストロゲンを補充しており、50歳で出産しました。ところが産後に突然全身疼痛(とうつう)に襲われました。かかりつけの産婦人科医に血液検査をしてもらったところ、エストロゲンがほぼゼロに近い状態になっていました。更年期と出産が重なり、いわば急性の更年期障害になったというわけです。そこで直ちにホルモン補充療法を受けました。おかげですぐ症状も治まり、その後も治療を継続して体調を維持できています。
大須賀 野田さんの場合はすぐに産婦人科に行かれたこと、そしてその後も定期的に通院されていることは、とても良い判断だったと思います。更年期障害が厄介なのは、症状が多彩で、個人差があるということ。例えば目まいや動悸(どうき)がひどくなる方、肩こりや頭痛が出る方、精神的にもいらいらしたり、寝られなくなったり、中にはうつのような状態になられる方もいます。自分の不調の原因がわからず、日常生活や仕事でも不安を感じながら過ごされている方も多いのではないでしょうか。
重大な病気につながるリスクも 自己判断せず産婦人科へ
――更年期障害にはどのように対処すればよいでしょう。
野田 更年期障害に悩む女性に対して「気持ちの問題だよ」「そのうち楽になるよ」といった声をかけて励ます人もいるようですが、更年期障害はエストロゲンの低下という生理的な原因で起き、しかも心身の健康に直結する問題です。軽々しく自己判断せず、すぐに産婦人科にかかっていただきたいですね。
大須賀 野田さんが受けられたホルモン補充療法は、低下したエストロゲンを飲み薬や貼り薬などで補うものです。他には漢方療法や、鎮痛剤や睡眠薬を処方する対症療法などがあります。
更年期はやがて過ぎると我慢されてしまう方もいるかもしれません。しかしエストロゲンの低下は更年期以降の健康にも影響を及ぼします。例えば高血圧、動脈硬化、糖尿病、脂質異常症など生活習慣病のリスクが高まり、これらは脳梗塞や心筋梗塞など重大な病気につながる恐れもあります。また骨がもろくなる骨粗しょう症にもなりやすく、骨折から寝たきりになってしまう人もいます。早めに産婦人科を受診することが、その後の健康的な老後にも有効です。
負のスパイラルを断ち生涯を健康に過ごす
――女性の更年期に対して、男性はどう向き合うべきですか。
野田 今の働き方や社会の仕組みはまだまだ「男性仕様」であると感じます。一方で、女性が活躍できる場が広がり、働く女性の年代も幅広くなるでしょうし、これからは女性の定年後の生活なども大きな問題になるのではないでしょうか。そうした意味でも女性が更年期をいかに過ごすかはもちろん、男性が女性の更年期に対し、十分な知識を持つことが非常に重要になります。
大須賀 更年期の時期は女性にとって、自身のキャリア形成や子供の独立、介護問題など、様々なストレスを受けやすい時期です。更年期はすべての女性が通る通過点であり、一時的に体調を崩しがちになるということを、男性も十分理解ししっかり支えてあげていただきたいと思います。
更年期障害で心身ともに傷つくと負のスパイラルに入ってしまう恐れもあります。更年期を上手に乗り切ることは負のスパイラルを断ち切り、その後の人生を健やかに過ごすための良い機会と考えましょう。
野田 女性の一生はいわばホルモンとのマラソン。男性もぜひ伴走してもらいたいと思います。家庭や職場でも女性の健康に気遣い、具合が悪そうに見えたら、迷わず病院に行くことを男性からも勧めてほしいですね。
私の経験からすれば、更年期は怖くありません。適切な治療を受けられれば生き生きと仕事も生活もできます。女性はつい家族の健康にばかり目が行きがちですが、まずは自分を大事にしましょう。普段から気軽に相談できる産婦人科医を持つことが、生涯を健康に過ごすための鍵になるのではと思います。
【2】若い女性に増える子宮内膜症 月経に異常感じたら受診
太田 郁子先生 倉敷平成病院 総合美容センター 婦人科
女性を悩ます月経の異常。「よくあること」と見過ごしてしまう方もいますが、背後には様々な病気が潜んでいる可能性があります。特に若い女性に増えているという子宮内膜症は症状が悪化する進行性の病気です。「女性の健康週間」を応援する本特集、2回目は月経異常や子宮内膜症について、倉敷平成病院・総合美容センター婦人科の太田郁子先生に伺いました。
子宮内膜症は進行性の慢性疾患 症状なくとも治療を
――月経に関連する症状にはどんなものがありますか。
太田 月経不順や月経困難症、月経前症候群(PMS)などがあげられます。月経不順は生理の期間が長かったり、短かったり、周期が乱れがちだったり、あるいは経血の量が多かったり少なかったりなどの症状があります。例えば「1週間程度早まったり遅れたりすることがある」、あるいは「だらだらと生理が止まらず、少量でも続いている」といった状態も月経不順と考えた方がいいでしょう。
月経困難症は、月経中に日常生活に支障が出るほどの強い症状があらわれる状態のことをいいます。主に下腹部に強い痛みを感じ、ほかにも腰痛や頭痛、吐き気などの症状も見られます。PMSは月経の1週間から10日前ほどにあらわれる、腹痛、頭痛、下痢や便秘、眠りが浅い、いらいら、集中力がなくなるなどといった症状を指します。
月経痛などの月経困難症や月経不順は子宮内膜症などが原因であるケースが多いです。また甲状腺異常や下垂体腫瘍など、体の他の部分の病気が影響している可能性もありますので、月経に異常を感じたら自己判断せず、ぜひ病院に行き詳しく検査をしてもらってください。
――子宮内膜症とはどんな病気ですか。
太田 子宮の内側を覆っている内膜とよく似た組織が、子宮内膜以外の場所にできる病気です。特に若い女性に増えています。本来の月経では子宮内膜からはがれた組織や血液が、腟(ちつ)から体外に排出されます。しかし子宮内膜症では、病気の組織が卵巣や子宮周辺部、腹膜や腸、尿管などに発生します。これらの組織が子宮内膜のように月経のたびに増殖し、はがれて出血するのですが、月経と異なり外に排出することができず、炎症や組織の癒着などを起こし、激しい痛みなどの症状を引き起こします。おなかや腰に強い痛みを感じたり、月経痛がだんだん強くなってきたら、子宮内膜症を疑ってなるべく早く診察を受けましょう。
一方、個人差も大きく、中には自覚症状のあらわれない方もいます。しかし子宮内膜症は進行性の慢性疾患と言え、症状がないからといって治療をしなくていいわけではありません。子宮や卵巣に発生すれば不妊の原因になりますし、腸や尿管などに発生した場合は組織の癒着が機能不全を引き起こし、臓器の切除などをしなければならないケースもあります。進行する前、できるだけ早期に対処していただきたいと思います。欧米では発症が疑われたら、確定診断が付く前から早期治療を開始することが推奨されています。
男性も女性の体を知り協力し合う社会を
――治療はどのように行われるのですか。
太田 月経不順や月経困難症を訴えられた場合、子宮内膜症のリスクが高いため、まずホルモン療法を実施することが一般的です。低用量エストロゲン・プロゲスチン(LEP)製剤などを主に使用します。子宮内膜症が進行し、卵巣が腫れるなどの症状が見られる場合は手術も必要になりますが、なるべくホルモン療法を続けて、コントロールしていくことが望ましいです。
――忙しい20~30代の女性には何かアドバイスはありますか。
太田 この世代の女性たちはキャリア形成にも忙しく、なかなか自分の健康に気が回らない方も多いと思います。しかし自分をメンテナンスするなら、故障の少ないうちにすべきでしょう。子宮内膜症などで、手術を受けたら何日間も休まなければなりませんし、体にもダメージが大きいですが、早期であれば、定期的に薬を飲むだけでコントロールできます。月経不順などの症状もやわらぎ、日常も楽に過ごせ、仕事の効率も上がるはずです。また将来の妊娠・出産や、40代以降の健康のためにも子宮内膜症などの病気には、早くから対処することが重要です。
後半へ
「女性の健康週間」 3/1〜8
産婦人科医が女性の健康を生涯にわたり総合的に支援することを目指し、3月3日のひな祭りを中心に3月1日から8日の国際女性の日までの8日間を「女性の健康週間」と定め、日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会の共催で2005年にスタート。08年からは、厚生労働省も主唱する国民運動として様々な活動を展開しており、今回で15回目を迎えます。