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LECTURE198  2019 March

【インタビュー】
ニューズ・ツー・ユーホールディングス 社長 ジャパンタイムズ 会長 末松弥奈子さん

複数の事業で視野広げる つながる出会い、人の縁

末松さん

起業はごく自然なことだったと語る末松弥奈子さん。立ち上げたインターネット事業を手探りで進めていくのが楽しかったという。複数の事業に関わることで人とのつながりや視野も広がり、現在は教育にも関心は及ぶ。オン・オフをあまり意識せずに仕事に取り組むのが好きという末松さんに、挑戦する原動力や働く女性への思いを聞いた。br>

院卒と同時に起業 「東京で仕事がしたかった」

 ――大学院卒業と同時に起業されたそうですね。
 末松 今から約25年前になりますが、文学部院卒の女性には一般企業の就職口がほとんどありませんでした。けれども田舎に帰るのも嫌で、東京で何か仕事をしたいという強い気持ちがあり、だったら起業しよう……。そんな感じでした。  実家が広島県で造船会社を営んでおり、選択肢として起業は特別なこととは思いませんでした。
 院生のときに編集プロダクションやマーケティング系の広告制作会社でアルバイトをしていたので、起業してまずそのプロジェクトを続けました。その後は企業のウェブサイト制作やオンラインマーケティングに携わりました。当時は同業他社も少なく、自分で調べながら手探りでものづくりをしたり、新しいことを勉強するのが好きでした。
 ――その後、業務を拡大していきました。
 末松 2001年にニューズ・ツー・ユーという会社を興し、業態も変えました。ネット上で信頼できる企業情報を流通させるサービス会社です。21世紀はインターネットの時代だろうと肌で感じていたので、新しいマーケットをつくるんだというワクワクした思いで突き進んでいきました。
 20代前半の若いときにインターネットの黎明(れいめい)期を生き、経験を積むことができたのはとても楽しかったです。

挫折や苦労は成長の糧 自分のスピード感が生かせる

  ――若い経営者として挫折や苦労はありませんでしたか。
 末松 挫折はしょっちゅうです。振り返ると挫折が自分を成長させてくれたと思えます。大変なことは色々ありましたが、経営者として自分のやり方、スピード感で仕事ができることは性に合っていました。
 私は5人兄弟の長女で、いとこたちを含めても自分が一番年上、中高は新設校だったので1期生で上がいませんでした。大学時代はもちろんゼミなどで先輩はいましたが、抑えつけられたという経験があまりなくて……。どちらかというと子供の頃から自分で道を切り開いていくタイプでした。
 ――チャレンジする原動力は何でしょう。
 末松 覚悟を決め、ごく普通に意思決定をするだけだと思います。ただ、オーナー経営者の覚悟、つまり何があっても投げ出さない約束というのは特殊ではないかと最近やっと気づき始めたところです。
 2年前、英字紙ジャパンタイムズとの縁をいただきました(*17年6月ニューズ・ツー・ユーホールディングスはジャパンタイムズの全株を取得)。話がきたとき、熟考した上で両社の強みが生かせるのではないかと決断しました。ジャパンタイムズは多様性があり、きちんと議論をしようという前向きな企業文化のある会社です。難しいこともありますが、やりがいを感じています。
 この環境を引き受けたからには次世代にきちんと会社をつないでいくために、投げ出さない、諦めないという信念、覚悟はしっかり伝えていきます。
 ――他に今夢中になっていることはありますか。
 末松 広島県神石高原町に全寮制小学校を20年4月開校を目指し準備中です。その過程で、教育に責任を持って実践している人たちに出会いました。皆さん面白く、教育に熱い心を持っていて、会って話をするのが楽しいです。色々な気づきもあります。
 ――複数の事業を同時並行で進めるのは大変では。
 末松 この教育事業は準備室があり、事務局長がいます。体制ができているので、一人で抱え込まずにチームで行っていることがポイントです。  一つのことだけに集中しないことで視野が狭くならないのです。複数の軸足を持つことは自分にとって大事で、そのネットワークが必要なときに必要な人と出会える縁をつくってくれています。
 昔からオン・オフをあまり意識せずに仕事をするのが好きで、気分転換も仕事でしている部分があります。「Satoyama推進コンソーシアム」を設立し、地方自治体や地域のサステナブルな取り組みを英語で紹介していますが、その「スタディツアー」として、各地の現場の視察に行っています。社内外の仲間と古民家で雑魚寝をしたり、現場で体験したことがプロジェクトのコンテンツに生きてくるのです。

道切り開いた先輩女性たちに 感謝の気持ちを忘れずに

――働く女性に伝えたいことはありますか。
 末松 私も含めて日本の女性は自己肯定感が低い気がします。でも、モチベーションを持ち、やりたいことを実現するため、勉強する時間を持っている方も多く、それは素晴らしいことです。「今のままでいいのでは」と伝えたいですね。
 もう一つは、道を切り開いてきた先輩女性たちへの感謝の気持ちは忘れずにということです。古くは女性選挙権の獲得から、地方出身・一人暮らしの女性は企業に就職できなかった時代を経て、今では育休をはじめとした休業取得や時短勤務など働きやすい環境が整えられてきました。現代の働く女性が頑張って獲得することは、自分のためだけではなく、未来の人たちから「ありがとう」と言われることでもあると考えています。先駆者の女性たちが切り開いてくれた道をつなぎ、ご自身も次世代からも感謝される人であってほしいです。


末松弥奈子(すえまつ・みなこ)さん
ニューズ・ツー・ユーホールディングス 社長 ジャパンタイムズ 会長 

1993年学習院大学大学院修士課程修了後、インターネット関連ビジネスで起業。2001年ネットPRを提唱するニューズ・ツー・ユーを設立。17年ジャパンタイムズ会長。広島県出身。