日本経済新聞 関連サイト

特集/企画

丸キャリロゴ

LECTURE209 2021 February

丸の内キャリア塾とは、キャリアデザインを考える女性のための実践的学習講座です。毎回、キャリアやライフプランに必要な考え方と行動について多面的に特集しています。

「女性の健康週間」
産婦人科医が女性の健康を生涯にわたり総合的に支援することを目指し、3月3日のひな祭りを中心に3月1日から8日の国際女性の日までの8日間を「女性の健康週間」と定め、日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会の共催で2005年にスタート。08年からは、厚生労働省も主唱する国民運動として様々な活動を展開しており、今回で17回目を迎えます。全国各地で開催される女性の健康に関する市民公開講座などの情報は、日本産科婦人科学会ホームページの「イベント情報」よりご確認ください。

【対談 1】

妊娠前の健康づくりを考える
「プレコンセプションケア」

今回丸の内キャリア塾は、「女性の健康週間」を応援する特集を4日間にわたり掲載しました。1回目は妊娠前の健康管理である「プレコンセプションケア」について、参議院議員・医師の自見はなこ氏と広島大学医学部産婦人科学教授の工藤美樹先生に話し合っていただきました。

1日目

右:自見 はなこ先生
  参議院議員・医師
左:工藤 美樹先生
  広島大学医学部産婦人科学教授

低出生体重児が増加
将来の健康リスク高まる

 工藤 「女性の健康週間」は女性の健康を生涯にわたってサポートしようと2005年に始まった活動です。16年にわたり様々な啓発を進めてまいりましたが、まだ十分ではないと感じており、その一つが「プレコンセプションケア」です。コンセプションは妊娠という意味ですので、妊娠前の健康管理といった意味になります。女性やカップルが、妊娠しやすい体づくりや生まれてくる赤ちゃんの健康のことを考えて、自分たちの生活や健康に向き合うことを推奨する取り組みです。
 自見 私は参議院議員と小児科医という二足のわらじを履いていますが、特に力を入れているのが、子どもや青少年、その保護者や妊産婦に対し必要な成育医療等を切れ目なく提供することを目的とした「成育基本法」に関する活動です。その中でもプレコンセプションケアは重要な項目ですが、特に日本ではダイエットなどによる妊娠時の栄養不足から、低体重で生まれる赤ちゃんが多いことが問題となっています。
 工藤 出生時2500㌘未満の赤ちゃんを低出生体重児といいますが、日本での出生率は約10%程度で、先進国の中でも抜きん出て高いのです(下図)。心配なのはそうした低出生体重児に将来、糖尿病や高血圧、また狭心症や心筋梗塞といった病気のリスクが高まるということです。妊娠中に母体の栄養が十分ではない場合、胎児はそれを飢餓と認識して、その状態にあった体質で生まれてしまいます。すると成長してから普通の食生活を送っていても、その人にとっては過剰な栄養摂取となり生活習慣病を発症しやすくなるのです。
 こうした傾向は30年以上にわたる疫学的な調査により裏付けられており、今後日本でこのような生活習慣病が増える要因になるのではと懸念しています。以前は妊娠高血圧症候群、いわゆる妊娠中毒症を避けるため妊娠中は太らないようにという指導が一般的でしたが、現在は妊娠中もバランスの良い食事をして適切な範囲で体重を増やすよう指導しています。

低出生体重児

妊娠・出産について
男女ともに理解深める

  自見 成育基本法では食育の推進も重要項目です。妊婦がやせていると、低出生体重児が生まれやすいのですが、実はそうした女性は妊娠以前から適正体重以下であることが多いのです。食育の問題は家族の問題でもあるので、将来母親になる女の子はもちろん、男の子にもしっかりとした栄養の知識を持ってもらうことは非常に重要です。
 工藤 そうですね。プレコンセプションケアは女性に限った話ではありません。例えば夫がたばこを吸う家庭の場合、低出生体重児が生まれやすいことが明らかになっていますし、不妊の要因の半数程度は男性側に起因するといわれています。また、妊娠中に感染すると赤ちゃんに障害が出ることもある風疹などの感染症に対し、男女ともにしっかり予防接種をすることも大事です。妊娠前の健康チェックは、男女を問わずプレコンセプションケアの重要項目の一つです。
  自見 有名人などの高齢での妊娠や出産が話題になることがありますが、いくつになっても妊娠できると誤解されている方も多いようです。男女ともに加齢につれて妊娠、出産機能が衰えていくことや妊娠にも適齢期があることなどは、学校教育でも触れられることは少ないようなので、今後は妊娠・出産についての教育にも力を入れていく必要があります。
 工藤 一般の方にも妊娠・出産にまつわる知識をしっかりつけていただくことで、妊婦さんのストレス軽減や、家庭や職場でのより良い環境づくりにつながり、健康的な出産の増加が期待できると思います。

知識不足が深刻な問題生む
子どもたちに適切な性教育を

  自見 新型コロナウイルス感染症の拡大により、人とのコミュニケーションが極端に減ってしまった中、性や妊娠にまつわる問題に一人で悩む女性が増えています。生理や体の不調について友人などに相談できない、知識不足により望まない妊娠をしてしまった、また妊娠しても誰にも頼れないなど、孤立が深刻な問題を生んでいます。
 工藤 孤立により必要な情報が得られないというのはプレコンセプションケアにとっても危機的状況です。一方、オンラインで助産師さんに相談できるシステムが立ち上がるなど、新たなツールを駆使したコミュニケーションも登場していますので、ぜひ利用してください。
 自見 プレコンセプションケアについて知ることが、性や妊娠というものを深く知るきっかけになればと思います。子どもたちに適切な性教育を行い、自分をもっと大事にしてもらうことはもちろん、性や妊娠について、よりナチュラルに話せる社会の実現を目指したいですね。

【インタビュー 2 更年期】

つらいときは医師に相談
更年期以降への備えも

  更年期とは、女性の閉経前後の時期のこと。女性ホルモンの減少によって心と身体にさまざまな変化が起こり、ほてりやのぼせなどの身体症状やいらいらするなどの精神的な症状が表れる人もいます。しかし過度に怖がる必要はありません。「女性の健康週間」を応援する本特集、2回目は女性の更年期について、さがらレディスクリニック院長の相良洋子先生に伺いました。

相良先生

     
相良 洋子先生  
さがらレディスクリニック 院長  

女性ホルモンが乱高下
精神症状に悩む人も

 ――更年期とは何歳くらいを指すのでしょうか。

 相良 更年期は、閉経を挟んで前後5年ずつの計10年間ほどと定義されています。閉経の年齢は人によって異なりますが、51歳前後のことが多いので40歳代後半~50歳代前半が一般に更年期と考えられています。

   ――更年期の女性の身体には、どのような変化が起こるのでしょうか。

 相良 卵巣の機能の衰えに伴い女性ホルモンが乱高下しながら徐々に低下していくため、自律神経のバランスが崩れます。いわゆる更年期障害の多くは、この自律神経の不安定さが原因と考えられます。

   ――どのような症状が表れるのですか。

 相良 症状は個人差が大きいですが、代表的なものはホットフラッシュといわれる血管運動神経症状です。血管が開いたり閉じたりすることで、急に汗が噴き出したり体が冷えたりします。動悸(どうき)や頻脈などを伴うことも少なくありません。もう一つは精神症状で、気分が落ち込む、わけもなく不安になる、いらいらする、情緒不安定になる等です。
 精神症状は、この年代の女性が経験する環境の変化も影響しています。夫の退職や子供の自立、親御さんの介護といった家庭環境の変化、また仕事をしている人なら管理職になって責任が重くなるといった職場環境の変化など、更年期には公私ともにさまざまな変化が起こります。
 これらの心理社会的要因は身体症状にも影響を与えます。つらいときには医師に相談してほしいと思いますが、日本では治療を受けている女性は約2割、ほとんど症状がない女性が約2割で、残りの6割は症状があっても治療は受けていないといわれています。

更年期に対処するとともに
これからの生き方を考える

――更年期障害の治療はどのように行うのですか。

相良 女性ホルモンの減少が原因の場合には、ホルモン補充療法(HRT)が適応になります。ホルモン剤には経口剤(飲み薬)、経皮剤(貼り薬、塗り薬)があります。そのほか、自律神経の調整薬や漢方薬が使われることもあり、サプリメントが有効な場合もあります。精神症状が主の場合は、向精神薬による薬物療法やカウンセリングが行われます。重症の場合には精神科や心療内科を紹介することもあります。

――更年期以降、女性は多くの病気にかかりやすくなるとも聞きます。

 相良 更年期以降は、血圧が上昇したり、動脈硬化の原因になるLDLコレステロールが上昇しやすくなります(図1)。また女性の骨量は女性ホルモンの減少とともに急激に減少する(図2)ので、もともと骨量が低い場合には骨粗しょう症にいたるリスクが高くなります。
 さらにがんの罹患率もこの時期から上昇します。乳がん、子宮体がんといった女性特有のがんだけでなく、大腸がんなども増えはじめます。更年期以降は、生活習慣を見直したり、定期的な健診を受けたりするなど、全般的な健康管理にも目を向けていただきたいと思います。

――更年期以降への備えも大切ということですね。

 相良 更年期以前から更年期以降にむけて、身体的な変化だけでなく、女性の置かれている環境や社会的役割も大きく変化していきます。更年期はまさに女性の人生の大きな過渡期ということができます。
 更年期障害は一時的なものですので、過度に恐れる必要はありません。むしろ更年期は人生後半への準備を始める時期ととらえて、残りの人生をいかに充実したものにするかを考えていただきたいと思います。

図1
図2

女性を支える 男性の理解と思いやり

「同僚や部下の女性の元気がない」「妻がイライラしている」――。ホルモンの変動などによる女性特有の体調の変化には、男性の理解と思いやりが必要です。

職場で
 具合の悪そうな同僚や部下の女性に対し、セクハラを恐れるがあまり「体調が悪いなら休んだら」といった具合に突き放すような対応を取っていませんか。本人の体調や希望にじっくり耳を傾け、仕事量や時間を調整するなど、女性が十分なパフォーマンスを発揮できるような周囲の配慮が望ましいでしょう。
 また、無理をしている女性に「がんばっているね」は決してほめ言葉になりません。女性の体調不良には重大な疾患が潜んでいる可能性もあります。専門医である婦人科の受診を勧めてください。

家庭で
 20~30代の若い女性でも月経に伴い体調に変化があり、「月経前症候群(PMS)」などの症状が重く出る人もいます。動きづらそうにしていても怠けているわけではなく、放置していると悪化する病気の可能性もあります。ネットなどの情報をうのみにするのではなく専門医による正確な診断を受けましょう。
 40~50代になると更年期障害の影響が強く出る女性が増えてきます。さらに夫の退職・子供の自立・親の介護など環境の変化が重なり、深刻な負のスパイラルに落ち込むことも。
 パートナーである男性も、身体的、精神的にさまざまな負担を分担するなどして支えましょう。

  3日目、4日目のコンテンツはこちら