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LECTURE209 2021 February

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【インタビュー 3  ピル】

ピルを賢く使い
自分の体をコントロール

女性の20~30歳代は妊娠・出産の適齢期である一方、仕事のキャリア形成の時期でもあります。両立することは難しいと考える人もいますが、ピルを賢く使って自分の体をコントロールすることもできます。「女性の健康週間」を応援する本特集、3回目は杏林大学医学部産科婦人科学教室の西ヶ谷順子先生にピルについて詳しく聞きました。

3日目

西ヶ谷 順子先生
杏林大学医学部 産科婦人科学教室
 

ピルには避妊だけでなく
体調を整える効果も

 ――20~30歳代の女性が妊娠・出産以外で産婦人科を受診する場合、どんな病気が多いのでしょうか。

 西ヶ谷 月経痛がつらい、月経の量が多い、月経不順など、主に月経に関する相談が多いです。

   ――月経の病気には低用量ピルが治療に使われると聞きます。

  西ヶ谷 ピルは日本では最初に避妊薬として承認されたのでそのイメージが強いのですが、今は治療薬としても使われています。女性ホルモンのエストロゲンとプロゲステロンの合剤で、月経痛を改善し、子宮内膜症の治療にも使われます。また過多月経や、月経の前になるとなぜかイライラするといった月経前症候群(PMS)の改善にも効果が期待できます。欧米では、女性の生活の質を高めるための薬として日常的に使われています(図)。

ピル使用率

   ――PMSは、どのレベルになったら受診したらよいのでしょうか。

西ヶ谷 基準はなく、本人がつらいと思ったらいつでも産婦人科医に相談していただきたいです。お話だけで安心する人もいますし、薬を飲まなくても薬があると知るだけで安心する人もいます。

   ――病気の治療でないとピルは処方してもらえないのでしょうか。仕事の都合や学校行事、スポーツ大会、旅行などで月経をずらしたいときがあります。

西ヶ谷 医師は必ず目的を確認しますが、病気でなければ処方しないということはありません。目的を知ることで、病気の治療のためならもっと良い治療法があるかもしれませんし、アスリートならそれに適したピルを処方するなど、専門家としてより良いアドバイスができるからです。実は、女性産婦人科医の中には大きな手術などと月経が重なりそうなときはピルでコントロールする人もいて、日常的にメリットを生かしています。

   ――副作用はないのでしょうか。

 西ヶ谷 服用してはいけない例はいくつかあります。一番多いのは喫煙者で、心筋梗塞等の心血管系の障害が発生しやすくなります。そのほか血栓症やその既往のある人、また乳がんの人などは服用できません。ネット通販で購入して自己判断で服用するのは危険であり、産婦人科医に相談することをお勧めします。

妊娠・出産も、仕事も、
両立して充実した人生を

   ――ピルを飲むと妊娠しづらくなるということはありませんか。

  西ヶ谷 よく誤解されるのですが、それはいっさいありません。服用をやめてしばらくすると、妊娠は可能です。ピルを上手に使って自分の体をコントロールしながら、いざ妊娠・出産を真剣に考えるときが来たらやめればよいのです。

   ――20~30歳代の女性は、妊娠・出産と仕事のキャリア形成が重なる時期です。悩んでいる女性にアドバイスをお願いします。

  西ヶ谷 一昔前はどちらかを選ばなければいけない、逆に言うとどちらかを捨てなければいけないと考えられていました。しかし現代は両立することが可能になってきており、それをさらに推進するためには、女性自身も含めた社会全体がもっと正しい知識を持つ必要があります。まずは、妊娠・出産に適した時期は20~30歳代であり、40歳代になると難しくなるということを知ること。女性の体がそのようにできているのだから仕方がないことで、仕事が一段落したら子供が欲しいと思っても、そのときにはもう遅いということがあります。女性は手遅れにならないように早めに人生計画を立て、パートナーと相談し、そして周囲がそれをバックアップするような社会になってほしいです。産婦人科医がお手伝いできることも多いと思うので、気軽にかかりつけ医というかたちでご相談いただきたいです。

【インタビュー 4   不定愁訴】

特に異常なし、でもつらい
女性を悩ます「不定愁訴」とは

  頭が重い、体がだるい、眠れないなど体調不良を感じ、検査をしたけど異常なし、でもつらさが続く・・・・・・いわゆる「不定愁訴」に悩まされる女性は多いようですが、仕方がないとあきらめてしまう方も。「女性の健康週間」を応援する本特集、4回目は不定愁訴について、東京医科歯科大学教授の寺内公一先生に伺いました。

寺内先生

     
寺内 公一先生
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科教授

身体的・心理的・社会的
さまざまな要因が関係

 ――不定愁訴とはどのような状態をいうのでしょう。

 寺内 例えば頭が重い、体がだるい、イライラする、よく眠れないなど、何となく体調が悪いという自覚症状があるけれど、検査をしても原因となる体の異常が見つからないといった状態を不定愁訴と呼んでいます。特徴として、自覚的に訴える症状が一つに定まらず、多彩で変化するということが挙げられます。多彩な症状を訴える疾患として全身性エリテマトーデス(SLE)という自己免疫性の病気などもありますが、この場合は検査で診断できますので不定愁訴には当てはまりません。

  ――更年期障害の症状と似ているようですね。

 寺内 更年期障害の症状は、不定愁訴と重なっている部分が多いと言えます。不定愁訴を訴える患者は圧倒的に女性が多いのですが、これには身体的、心理的、社会的な要因、つまりバイオ・サイコ・ソーシャルな要因が、その発症に関わるものと考えられます。
 女性に不定愁訴が起きやすい身体的な要因として挙げられるのが、女性ホルモンの大きなゆらぎです。女性はその生涯の中で女性ホルモンの変動に幾度もさらされます。初経の時に女性ホルモンがぐっと増え、その後の月経周期の中でも大きく変動します。妊娠の時にも大幅に増加し出産後にはガクンと減ります。そして更年期には大きく揺らぎながら徐々に減っていきます。こうした女性ホルモンの変動に合わせ、不定愁訴の症状が出やすくなるのです。月経がはじまる1週間前くらいから起きやすい月経前症候群(PMS)なども不定愁訴と重なる部分が多いですね。

   ――心理的、社会的要因とは具体的にどんなものでしょう。

寺内 その方がどのような性格形成をされてきたか、どんな気質を持っているかなどが心理的な要因として挙げられます。社会的な要因としては職場の人間関係や配偶者や子供、親との関係などが大きいでしょう。例えば更年期くらいの女性の場合、職場での責任が高まったり、配偶者の退職や子供の自立、さらに両親の介護に直面したりなど社会的な要因が重なりがちです。

重大な病気の可能性も
一人で悩まず受診を

――不定愁訴かもと思った場合、受診した方が良いのですか。また治療法はあるのでしょうか。

寺内 何となく感じる体の不調を「不定愁訴や更年期障害かも」と思ってしまい、受診してもしょうがない、と自己判断されてしまう方もいるかもしれません。しかし、ちょっとした体の異常にも重大な病気が隠れている可能性もあります。例えば不定愁訴に似た病態に甲状腺機能障害や慢性疲労症候群などがあります。体の不調を感じたら、まず専門の診療科でよく調べていただくことをお勧めします(図)。
 治療についてですが、医師は患者さんの訴えに耳を傾け、背後にある心理的・社会的要因を探ることから始めます。患者さんの心理的負担を軽減するのと同時に、生活習慣の改善などを指導することでも、心身の健康が回復することもあります。更年期障害が疑われる場合は、ホルモン補充療法や漢方薬、向精神薬などの薬物療法も選択肢となります。

4日目

――コロナ禍による生活変容が不定愁訴の増加につながることはありますか。  

 寺内 やはり心理的・社会的な面で心配はありますね。パートナーや子供がずっと家にいることでストレスを感じる方もいるでしょうし、友達などと自由に会えなくなり社会的な孤立を感じる方も多いと思われます。こうしたことが引き金となり、体の不調につながることもありますので、一人で悩まず、ぜひ医師に相談していただきたいと思います。

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