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LECTURE205 2020 February

丸の内キャリア塾とは、キャリアデザインを考える女性のための実践的学習講座です。毎回、キャリアやライフプランに必要な考え方と行動について多面的に特集しています。

【女性の健康週間 インタビュー】

女性の健康を包括的に考える
「リプロダクティブヘルス」

毎年3月1~8日は「女性の健康週間」。日本産科婦人科学会と日本産婦人科医会は、この時期に「女性の生涯の健康」をサポートするための様々な取り組みを行っています。今回、丸の内キャリア塾はこの取り組みを応援する特集を3日間にわたり掲載しました。1回目は女性の健康を包括的に捉える「リプロダクティブヘルス」について、日本産科婦人科学会理事長の木村正先生に伺いました。

木村正先生

日本産科婦人科学会理事長
木村 正(きむら・ただし)先生

気になることがあったら
産婦人科医に相談を

――リプロダクティブヘルスとはどんな意味ですか。

木村 直訳すると「性と生殖に関する健康」となります。女性の健康を包括的に考えようという概念で、妊娠、出産はもちろん、月経の開始から閉経後までのすべての健康が含まれます。さらにはパートナーとの健康で幸せな生活までを捉えた幅広い概念です。

――国際的な概念のようですが、国によって内容に違いはあるのでしょうか。

木村 基本は同じですが、国によって環境衛生の度合いや医療資源の多寡、法律が異なるので、直面する問題も違ってきます。日本は栄養状態が良く、医療資源が豊富な国ですが、意外と見逃されているものに成人女性の貧血があります。
 世界保健機関(WHO)のリポートでは、東アジア諸国の中では日本人の妊婦以外の女性に貧血が多いことが報告されています(下図)。栄養のアンバランスと月経のコントロールがうまくできていないことが主な原因です。そのほか子宮頸(けい)がん予防や更年期障害等、医療で解決できることが多々あるのですが、その情報がうまく一般に伝わっていないように思います。

生殖年齢の非妊娠女性における貧血の有病率

 女性の一生には特有の様々な問題があります。産婦人科医は包括的に解決する能力を持っており、いろいろな選択肢を提示することができるので、気になることがあったらぜひ相談していただきたいのです。

――日本では性に関するプライベートな問題を、医師とはいえ他人に相談するのをためらう人が多いようです。

木村 それも貧血が多い原因だと思います。無理なダイエットに加えて生理の量が多いと貧血になるのが当然ですが、他人と生理の量を比較することがないので自分が多いかどうかがわからない。
 会社の健康診断で貧血がわかっても、産業医が産婦人科医でなければ栄養のことを注意するだけで、生理のことまでは聞きません。ところがいくら栄養を取ってもそれ以上に出血していたら貧血になりますから、産婦人科医なら生理が多い理由を調べて適切な処置をします。このように、我々に相談していただければ解決できることで悩んでいる方が多いと実感しています。

産婦人科医は女性の
健康を生涯にわたりサポート

――女性が気軽に産婦人科医に相談できるようにするためにはどうしたら良いでしょうか。

木村 我々が相談されやすい雰囲気を作ることが重要でしょう。産婦人科=内診というイメージを持っている女性が多いので、それを払拭する必要もあると思います。特に月経の問題はお話を聞くだけでもかなりのことがわかるので、今は嫌な方にはいきなり内診することはありません。ただ子宮頸がんや痛み、不正出血などは内診が有効で、しないとわからない場合があることは理解してください。

――閉経後の女性も相談した方が良いのでしょうか。

木村 平均寿命が延びていますが、女性が閉経する年齢は50歳前後とまったく変わっていません。閉経後の人生が非常に長くなっています。閉経前後からその後においても、更年期障害や骨粗しょう症など女性特有の問題はいろいろとあり、産婦人科医が力になれます。例えば閉経後の出血の場合、10人に1人は子宮体がんが見つかります。実はリプロダクティブヘルスは日本の産婦人科医が日々実践していることなのです。この概念をさらに普及させるためには男性の理解も必要であり、企業ぐるみ、さらには社会全体で取り組むことを期待します。

【女性の健康週間 インタビュー 2】

ワクチンを正しく理解し
社会全体で感染から守る

 細菌やウイルス感染はかかった当人の健康に害を及ぼすだけでなく、母子感染などにより、子供にも影響が及ぶことがあります。感染により引き起こされる様々な疾患にはワクチンで予防できるものがあり、妊娠・出産を考える女性やそのご家族などには適切なワクチン接種が必要です。「女性の健康週間」を応援する本特集、2回目は感染性疾患のリスクに備えるワクチンについて、横浜市立大学医学部産婦人科学教室教授の宮城悦子先生に伺いました。

宮城悦子先生

横浜市立大学 医学部
産婦人科学教室教授
宮城 悦子(みやぎ・えつこ)先生

風疹に谷間世代
男性の接種で集団免疫を

――妊娠・出産を考える女性にとって重要なワクチンにはどんなものがありますか。

宮城 母子感染の恐れがある風疹や麻疹(はしか)、水ぼうそうや流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)、B型肝炎などを予防するワクチンが挙げられます。また妊娠する能力を失うリスクがあり、生命の危険もある子宮頸(けい)がんを予防するワクチンも重要です。
 風疹などの母子感染で恐ろしいのは、生まれてくるお子さんの心臓・視覚・聴覚などに先天性の異常が発生するリスクが高まることです。にもかかわらず、妊娠を予定する女性でも風疹などのワクチン接種率は十分とは言えません。

――風疹はワクチン未接種の方が多い「谷間世代」が存在するそうですね。

宮城 国によるワクチン事業の谷間などに当たる世代です。女性の場合は1979年から89年生まれの現在30~40歳くらいまでの方で、妊娠・出産を考えている方も多い世代だと思います。男性の場合は62年から79年生まれの方が該当します。女性の積極的な接種はもちろんのこと、谷間世代に当たる男性には、現在国から風疹の抗体検査および予防接種の費用助成があるので、ぜひ受けていただきたいと思います。

――なぜ男性のワクチン接種が重要なのでしょう。

宮城 先進国では珍しく日本では度々風疹が流行しますが、患者の多くは男性です。風疹に限らず流行性の感染では、多くの人がワクチン接種により免疫を獲得していると、集団の中に感染者が出ても流行を阻止できる「集団免疫」の効果が発揮されます。さらに何らかの事情でワクチン接種ができなかった人や免疫力の低い妊婦さんを守ることもできます。集団免疫を高めることにより、社会全体で母子感染を防ぐことになるのです。

ワクチンで予防できるがん
世界中で排除へ

――子宮頸がんにはどんなリスクがありますか?

宮城 子宮頸がんは、主に性交渉などでヒトパピローマウイルス(HPV)に感染することで発症します。現在日本では年間約1万人が罹患(りかん)し、2800~3000人の方が亡くなっており、うち1000人以上は60歳未満の働き盛りの女性です。初期の段階は子宮頸部の一部を切除する手術などによる治療が可能ですが、流産・早産など妊娠・出産に影響が出る可能性が高くなります。
 性交渉の経験がある女性のうち50~80%は、生涯で一度はHPVの感染機会があると推計されており、もちろん男性にも感染します。このHPV感染を予防するのが、HPVワクチンです。

――しかし接種率が上がらないようです。

宮城 2013年4月から定期接種になりましたが、有害事象が疑われる事例が発生した問題から、その年の6月に厚生労働省は積極的な推奨を控えて今日までその状態が続いています。定期接種で無料にもかかわらず現在接種率は1%を切っています。
 しかし子宮頸がんはHPVワクチンで予防できるがんです。ワクチン接種を早期に取り入れ、男性への接種も開始したオーストラリアや英国・米国などの国々では、HPV感染や高度前がん病変の発生が明らかに低下していることが報告されています。これらの国々では、集団免疫効果によりワクチン未接種の人のHPV感染も低下しています。
 世界保健機関(WHO)は撲滅された天然痘のように、子宮頸がんを世界から「排除」することを目標にしており実行への戦略を発表しています。それによれば、2030年の時点でワクチン接種率90%、子宮頸がん検診受診率70%、十分な子宮頸がん治療90%が達成されれば、85〜90年にはほぼ世界中で子宮頸がんが排除されたとみなせる基準に達するというものです。

2030年子宮頸がん症例数

 ワクチンに関しては、ぜひ信頼できる情報源を活用していただきたいと思います。日本産科婦人科学会のHPもご覧ください。
「日本産科婦人科学会 HPVワクチン」※外部サイトへリンクします)

【女性の健康週間 インタビュー 3】

更年期障害は産婦人科で治療
閉経後のリスクにも注意

 女性の閉経前後の時期を更年期といい、その時期に現れる体の障害を更年期障害といいます。誰にでもあることだから仕方がないと諦めている女性も多いかもしれませんが、治療は可能です。更年期の女性の体の中でどのような変化が起こっているのか、どのような症状が現れるのか、どのような治療法があるのか、飯田橋レディースクリニックの岡野浩哉先生に伺いました。

岡野浩哉先生

飯田橋レディースクリニック院長
岡野 浩哉(おかの・ひろや)先生

女性ホルモンの「ゆらぎ」
体に負担、様々な症状

――更年期の女性には、どのような体の変化が起きるのでしょうか。

岡野 更年期という言葉は非常に曖昧な言葉なのですが、一般に女性は40代くらいから卵巣の機能が低下し始め、順調だった月経の周期が乱れ出し(月経不順)、その後月経の間隔が延びるようになり閉経に向かいます。この頃から症状が徐々に現れ始めますが、仕事や生活に支障を来すような障害がはっきりと現れるのは、月経が3カ月以上こないようになった頃からです。突然閉経する人はほとんどおらず、女性ホルモンが出たり止まったりを繰り返す「ゆらぎ」の時期(下図 )に心と体が慣れず、今まで経験したことがないような感覚を体験します。

閉経前後の女性ホルモン分泌イメージ

――どのような症状や障害が現れるのですか。

岡野 自律神経失調といわれる体温調節の不具合や感情のコントロールができないなどが典型的な症状です。症状が似ており間違いやすいものに月経前症候群があります。成因も治療法も異なりますので、正確な診断が必要です。
 私が診断するときに重視しているのは問診です。順調だった月経が乱れ始め、それまでなかった症状を自覚するようになり、月経の間隔があくほど症状が強く出るようであれば、更年期症状を疑います。閉経時期は個人差が大きいので年齢だけでは判断できません。典型的な症状は、のぼせ、ほてり、発汗といった血管運動症状、整形外科的には問題のない関節痛、睡眠障害の中では中途覚醒、またイライラ、抑うつといった精神症状です。ただ発現の仕方も個人差が大きく、更年期の症状がまったくないという人もいます。

環境の変化も大きく影響
ホルモン補充療法で治療

――更年期障害はほとんどの人にあるのだから仕方がないと諦めている女性もいると思いますが、治療法はあるのでしょうか。

岡野 治療が必要かどうかを決めるのは医者ではなく患者さん本人です。血液検査で重症度がわかるものではないので、本人が生活や仕事に支障を感じ困っているのであれば治療を選択してください。更年期障害と診断がつけば、根本的な治療法としてホルモン補充療法があります。患者さんの好みによって飲み薬、貼り薬、塗り薬などが選べます。障害によって仕事を辞めたりパフォーマンスが低下したりするのはもったいないことです。我慢せずに産婦人科を受診していただきたいですね。

――更年期の年代の女性は、家庭でも社会でも環境の変化が大きそうですね。

岡野 そうですね。仕事をしている人であれば会社の中で管理職になったり、家庭でも子供の世話や家事、ご主人との関係の変化、親の介護が必要になったりなど、取り巻く環境の変化からくるストレスが、更年期と重なり影響が大きくなることもあります。最近はペットロスも多いです。そのため更年期を診る産婦人科医は患者さんの話から症状の成り立ちをひもとき、場合によってはメンタルの医師と一緒に診療することもあります。

――更年期の後、閉経後の女性が注意すべき病気についても教えてください。

岡野 それまで女性ホルモンによって守られてきた体の部分が守られなくなります。最初にリスクが高まるのは骨代謝の異常で、骨密度が減少します。また基礎代謝が落ちるので太りやすくなり、コレステロールの上昇や糖尿病の傾向がみられ、生活習慣病のリスクが高まります。当たり前ですが、食事・栄養の見直しと運動の励行による健康管理が基本です。日々の楽しみを見つけ、充実した人生を過ごしていただきたいです。


「女性の健康週間」

産婦人科医が女性の健康を生涯にわたり総合的に支援することを目指し、3月3日のひな祭りを中心に3月1日から8日の国際女性の日までの8日間を「女性の健康週間」と定め、日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会の共催で2005年にスタート。08年からは、厚生労働省も主唱する国民運動として様々な活動を展開しており、今回で16回目を迎えます。全国各地で開催される女性の健康に関する市民公開講座などの情報は、日本産科婦人科学会ホームページの「イベント情報」よりご確認ください。

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