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LECTURE206 2020 April

丸の内キャリア塾とは、キャリアデザインを考える女性のための実践的学習講座です。毎回、キャリアやライフプランに必要な考え方と行動について多面的に特集しています。

【インタビュー】

固定観念から自由に
ジェンダー平等の広告を

家族を米サンフランシスコに残してUNWomen(国連女性機関、以下UNW)日本事務所に単身赴任中の石川雅恵さん。信念を実現するための挑戦を日々重ねている。UNWが掲げる「アンステレオタイプ」について、そして自身のコミュニケーション術や仕事への向き合い方などを聞いた。

石川雅恵さん

UN Women(国連女性機関)
日本事務所所長
石川 雅恵(いしかわ・かえ)さん

神戸市生まれ。関西学院大学社会学部卒。米国オレゴン大学国際学部学士。神戸大学大学院国際協力研究科法学修士。同大学院博士課程在籍中に外務省専門調査員試験に合格し、1998年から日本政府国連代表部専門調査員。国連児童基金本部コンサルタント、国連人口基金広報渉外局資金調達部を経て2017年から現職。

女性の人権守る国連機関
経済的自立促す

――UNWの具体的な活動内容は。

石川 2010年に設立された国連機関で、本部はニューヨーク。女児を含めた世界中の女性の人権を守り、ジェンダー(社会的・文化的につくられる性別)平等を達成するために活動しています。したがってSDGs(持続可能な開発目標)では目標5の「ジェンダー平等を実現しよう」に深く関わっています。以前は4つの国連機関が個別に女性関連課題に取り組んでいたのですが、それらを1つにまとめた形で発足しました。
 日本語では国連女性機関と呼びますが、UNWの具体的任務は3つあります。第1が女性と女児の人権を守りジェンダー平等を達成するための国際的なルール作りです。第2はルールの施行、特に途上国できちんと遂行されること。そして第3に他の国連機関でも女性の人権を守る取り組みが実行されるための主導・調整役です。

――どんな領域がありますか。

石川 5つの優先分野としてまず政治参画、そして経済的エンパワーメント、女性に対する暴力の撤廃、人道援助や緊急時の女性参加、国家や地方自治の開発計画と予算におけるジェンダー平等の反映――これらに重点を置いています。

――経済的エンパワーメントとは。

石川 経済力をつけ、自らの意志で仕事ができ、自らの意志で得た収入の使い道を決定できる、経済的自立を意味します。というのも、女性は男性と同様にお金を稼ぐ力があるにもかかわらず希望の仕事に就けない。それは「こういう仕事に向いていない」などのバイアス(偏見)による差別が世界中にあるからです。女性が自分の力で得た収入を夫や恋人に搾取されてしまうケースも少なくないのです。

――自立の重要性を広めていくということですか。

石川 はい。女性の経済的エンパワーメントが発展途上の理由は、差別もあれば物理的な壁もある。例えば賃金格差です。男性と同じ仕事をしているのに女性の方が給料が安い。もしくは、同じように成果を上げているにもかかわらず、女性は管理職になれないなど、女性が経済活動をする中で差別や障害がなくなりません。その両方を取り除くための調査や提言などの活動をしています。

固定観念の是正へ
広告界のアライアンス設立

――UNWが提唱している「アンステレオタイプ」について教えてください。

石川 社会のあらゆる分野に潜む固定観念に焦点を当て、メディア、広告の情報発信を再検証し、是正することを意味しています。固定観念とは、例えば「女性は男性と同じような仕事に就くべきではない」「女性だったらこうあるべきだ」などのステレオタイプの考え方で、日本のみならず世界中に存在しています。それを強調するような広告を作る広告主も存在する。広告主が固定観念を捨て、女性を一人の人間としてきちんと認める意識を持っていないと女性の地位はいつまでたっても低いまま。広告は非常に大きな社会的影響力を持っているからです。こうした意識を広告主と共有する必要を痛感し、「アンステレオタイプ・アライアンス」を立ち上げました。

――アンステレオタイプ・アライアンスの詳細は。

石川 17年のカンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバルで、UNWが賛同企業とともに公式発表しました。広告業界のリーダーに対し、仕事を具体的に見直し、共同で指標を作り、変化を推進するように呼びかけています。また、広告業界のジェンダー平等意識調査を行い、データを収集しています。

――アライアンスにはどのような団体・企業が参加していますか。

石川 ユニリーバやサファリコム(ケニア最大手の通信業)、米大手広告会社のIPGが共同副議長を務め、グーグル、ツイッター、P&G、ファーストリテイリングなど世界に冠たる20以上の企業が会員になっています。より良い未来を作っていこうという同じ目標に向け、異業種そして同業他社が参加するミーティングは楽しく刺激にあふれ、活発な発言が飛び交います。
 今年3月には国連本部でジェンダー平等の考えを広めるサミットを開催する予定で会員各社と準備をしていました。しかし、新型コロナウイルス感染拡大のため中止となり、非常に残念です。

「施策もっと大胆に」
日本企業は当事者意識を

――日本でアンステレオタイプの考え方を浸透させるにはどうしたらよいと考えますか。

石川 日本の企業が「自分たちが責任を持ってやる」という当事者意識を持つことが大切です。世界のどこかでやっていることであって自分たちには関係ないという態度では、ジェンダー平等は到底根付かないでしょう。日本特有の現状に詳しい広告業界の人たちがワイワイガヤガヤ意見を言い合い、前向きにこの課題に取り組む場が必要だと考えており、現在アンステレオタイプ・アライアンスの日本支部設立を計画しています。
 世界各国の男女平等の度合いをランキングした19年「ジェンダー・ギャップ指数」(世界経済フォーラム)では、日本は121位と過去最低となりました。日本もそれなりに努力はしているのですが、政府も企業も大学も慎重すぎて、思い切った施策を実行する決断力に欠けるのではないでしょうか。ジェンダー平等に向け、まず行動で示そうという気概を見せることは非常に大切だと思います。

大切なことはビジュアルで
仕事で信念を持ち続ける

――様々な立場の人たちと円滑にコミュニケーションをとるために心がけていることはありますか。

石川 相手に理解してもらうためには、どういう言い方、伝え方をすればよいのかをいつも考えています。形式を重んじられる方、ざっくばらんな方、相手によって話し方を変えたり……。コミュニケーションは印象に残る会話をしてなんぼなので、楽しく会話ができることを大切にしています。
 そして、最も伝えたいことはグラフや写真、イラストなどの具体例を添えて、「ビジュアル化して誰にでも分かりやすく」を心がけています。

――国連の様々な機関で経験を重ねてきました。

石川 自分が信念を持ってできる仕事にずっと就いてこられたことはとてもありがたいです。一方、国連の職員は基本的に次のポジションは自分で見つけ、試験を受け、競争して勝ち取っていかなければならない側面もあります。自分も挑戦してきたからこそ今につながっているのですが、精神的にはきついところもあります。
 現在の仕事は米国で暮らす家族と離ればなれになるので葛藤がありましたが、やらない後悔よりもやった後悔の方がよいと決断しました。日本の企業の皆さんとジェンダー平等に向けた活動を精いっぱいしていきたいです。

石川雅恵さん2

写真キャプション

(左上)UNWが行った各国ジェンダー平等意識の調査結果を広告関係者に手渡す
(右上)講演活動も大切な任務の一つ
(下)モンゴル寒村部の母子保健センター視察のため出張中のゴビ砂漠にて

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