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LECTURE208 2020 November

丸の内キャリア塾とは、キャリアデザインを考える女性のための実践的学習講座です。毎回、キャリアやライフプランに必要な考え方と行動について多面的に特集しています。

【第100回セミナー】 

「私の人生、私のモノにするには
 ~アンコンシャス・バイアスの外し方~」

誰もが無意識に持っている偏見や決めつけ(アンコンシャス・バイアス)。これにとらわれ過ぎると自分の可能性を狭めることもあります。思い込みから一歩距離を置いて、思考の傾向を見直してみませんか。他者への理解が深まり、きっと新たな自分と出会えます。今回の丸の内キャリア塾セミナーはオンライン形式で開催、キャリアカウンセラーの小島貴子さんがそのヒントを語りました。

小島先生

東洋大学理工学部生体医工学科 准教授/キャリアカウンセラー
小島貴子(こじま・たかこ)さん

1977年、三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)入行。出産退職後、91年に埼玉県庁に職業訓練指導員として入庁。職業訓練生の就職支援を行い、7年連続で就職率100%を達成する。埼玉県庁を退職後、立教大学大学院ビジネスデザイン研究科 特任准教授などを経て、2012年4月から現職。

バイアス理解で言動変化
ネガティブ思考の原因は?

このセミナーの目的は、私たちが人生の様々な場面で身につけた偏見や思い込みという「バイアス」を理解すること。そして、自分の無意識のバイアスを外して、少しずつポジティブな変化を生み出すことです。自身のバイアスを理解し始めることで他者への対応や理解に変化が表れ、心地よい生活を自ら作りだせるようになります。
 生活・社会・仕事への漠然とした不安や不満などを解決したいけれど、自分の力ではどうにもできないと思うことはありませんか? 難しい・嫌だ・きらい……。こうしたネガティブな思考の中には多くの場合、アンコンシャス・バイアスが潜んでいます。無意識に自分の人生を枠にはめているネガティブ思考の原因がわかると、それだけで少し気持ちが楽になります。
 では、あなたも必ず持っているアンコンシャス・バイアスを、事例に回答してもらいながら探っていきましょう。まず、上下のヨコ棒(図1上)、どちらが長く見えますか。

図1

 「あぁ~またこれか、目の錯覚で上が長く見えるけど同じってやつね」と思いませんでしたか。実際は見た通りに上が長いのです。しかし、人は一度知ったこと、決めたことは変えにくい習性があります。これを知る事がアンコンシャス・バイアス理解の第一歩です。
 次にその下のイラスト(図1下)を見て、この後のやりとりを想像してください。
 あなたはどちらが上司だと感じながら返事を考えましたか。私たちは自分の環境や体験から物事を判断しがちです。日本の企業では若い女性が年上の男性を部下にすることはまだ少ないので、男性が上司と考えた人が多いかもしれません。

常識の変わる時代
柔軟思考で壁越えよう

日本の社会は従来、男性社会・縦社会・村社会とも呼ばれる閉鎖的な組織を中心に形成されてきました。しかし、今後は今までの常識が変化していくでしょう。特にコロナ禍で非対面の社会活動が広がる中、こうした変化を感じている人は増えているのではないでしょうか。
 柔軟な思考と視点が重要な今こそ、自分が無意識にどんなことを思い込み、決めつけているのかを知ってその枠から脱却するよい機会なのです。
 例えば、日常的につい使ってしまう「でも」「だって」「無理」「あり得ない」などの否定的な言葉が出る背景にはアンコンシャス・バイアスの壁があります。この壁の向こう側を知ることで、新たな地平が広がります。
 もう一つ、気付きのための簡単な問いかけをしますので、図2の10の質問に気楽な気持ちでイエスかノーで即答してみてください。
 半分以上がイエスの人は若干、アンコンシャス・バイアスの壁が高いかもしれません。
 アンコンシャス・バイアスの正体は、脳の中の「自己防衛」と考えられています。つまり脳は自分を安全安心な場所、コンフォート・ゾーンに置いて自分を守りたいのです。しかしこれが強すぎると過剰防衛になり、新しいことや大切なことを取り入れられなくなります。そんなときは「なんでこんなに過激になっているのだろう」「少し考えすぎかも」「この感情はどこから出たのかな」と一息入れることをお勧めします。
 アンコンシャス・バイアスはその時々の情報、経験、理解・納得で変化していきます。ですから決して良い・悪いで判断しないでください。大切なのは今の自分の中にあるバイアスを理解すること、つまり自分の思考や決断の傾向を知ることです。そのバイアスが自分やキャリアにとって不利益だと思うなら修正もできるし、価値があると思うならそのときの状況に合わせて進化させることもできます。

過去再確認で新しい自分へ
能力開発のチャンス

 過去のバイアスの再確認・再認識は、新しい自分の能力を開発するチャンス。これまでの自分のバイアスの変化を思い出してみてください。すると今のバイアスも少し方向を変えれば違う自分をみつけられるとわかります。能力開発はモチベーションが上がるし、自己肯定感が強くなります。
 注意したいのは、過去に失敗したからまた失敗すると思い込まないこと。アンコンシャス・バイアスを学んで理解すると、過去の失敗を今の私だったらどう解決できるかなと考えられるようになります。
 では、アンコンシャス・バイアスを外すためには具体的にどうしたらよいでしょうか。まず必要なのは、人間関係など身の回りのさまざまなことを「理解しよう」とする思いを根底に持つことです。「これはもしかしたら思い込みや刷り込みでやっていることなのかも」という気付きは理解への第一歩。新しい視点へ移ることで、新しい見方、考え方ができるようになります。
 この新しい視点からの考え方は「共感」という言葉に置き換えられます。実はアンコンシャス・バイアスを外す一番の道具は「共感力」すなわち、相手の気持ちに寄り添い、相手を理解しようとする力なのです。
 共感力を高めて使うためには、観察力・表現力・想像力に加え、他者や社会に対する情報収集力・分析力・発信力が必要です。といっても難しく考えることはありません。言葉を相手のために的確に使えることが大事なのです(図3)。

図3

 共感は2種類あります(図4)。第1は認知的共感。他者の視点や立場で理解する力です。他者の立場になって思考し、他者の状況を把握する力といえます。この力が備わると自分の言いたいことや伝えたいことを明確に説明できるようになります。相手に理解できるように伝えることは、相手からも理解の成果を引き出す重要な能力です。第2は感情(情動)的共感、他者の感情をくみ取り、自分のことのように感じる力です。相手の感情を理解するには、まず自分の感情の理解が必要です。

図4

他者視点から自己を知る
可能性を広げる手掛かりに

 アンコンシャス・バイアス外しは自分探検だと考えています。外すために自分のことを知る必要がある。少し怖いかもしれませんが、新境地をめざしてワクワクする気持ちで進んでほしいのです。よりよい方向に行くには、自分のことをできるだけ積極的に人に伝え、相手が思う自分が実際の自分と違っていたら恐れずきちんと「違う」と言い、修正することが重要です。これによって自己信頼や自己肯定が生まれ、他者からも肯定されるきっかけになります。
 自分がどんなバイアスを持っているかを知るには、人、社会、情報など様々なカテゴリーに分けて、バイアスを書き出してみてください。それだけでバイアスの壁は低くなります。そして、自分のバイアスの中から今後必要なものと、少し離れた方がよいものに分類してみましょう。
 私たちは自分を決めつけられたり勝手に想像されることには抵抗を感じますが、他者や社会に対しては色々とバイアスを作ってしまいます。自分を守れるのは自分しかいない。バイアスは自己防衛のためになくてはならないものですが、人に対して無意識に出し過ぎると、ハラスメントになったり、チャンスに蓋をしてしまうかもしれません。
 自分のバイアスをきちんと知り、うまく使ってください。そして新たな自分との出会いや可能性を広げ、周囲とよい関係を築くための道しるべにしてほしいと思います。

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