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 社会の最前線で働く企業人が講師となり、全国の高校生に向けて仕事への情熱や楽しさを発信するキャリア教育イベント「日経エデュケーションチャレンジ」。3年ぶりにリアル開催となった22回目の今年は「for SDGs」をテーマに冠し、社会課題発見・解決を担える人材育成に寄与するプログラムへと発展した。自らの仕事がどのように社会課題の解決につながっているかをわかりやすく語る各講師の授業から見えてきたのは、SDGsを自分事としてとらえることの重要性だ。

開催報告

校長のメッセージ
校長 一條 和生
校長 一條 和生
(いちじょう かずお)
IMD教授
一橋大学名誉教授
身近なところからSDGs

 世界でSDGsの動きをリードしているのは皆さんのような若者たちだ。持続可能な地球社会をつくっていくためには今から何をしなければならないかを、企業で活躍する講師の先生たちから学び、議論し合うのは素晴らしい。

 この授業を通じて、高校生の皆さんが環境問題だけでなく様々な社会問題にも視野を広げていき、自分自身の未来を考えるきっかけになればいいと思っている。

 それぞれの講義からは、身近な取り組みがSDGsにつながっていることもわかったのではないか。大事なのは生活の中で、まずは自分自身ができることをやってみることだ。そして、世界の仲間とつながろう。

UACJ

授業タイトル:

二兎追って二兎を得る?
アルミでかなえる、軽やかな世界

大町 奈央子 氏

大町 奈央子 氏

UACJ
R&Dセンター
第二研究部
先端生産技術研究室
主査

リサイクルの輪 意識して行動

 世界トップクラスのアルミニウム総合メーカー、UACJは「素材の力を引き出す技術で、持続可能で豊かな社会の実現に貢献する。」を企業理念に掲げる。大町先生は、アルミはリサイクルすることで二酸化炭素(CO₂)の排出を97%抑制できるとし、特長であるリサイクル性をフルに発揮させることの重要性を説明。
リサイクルの輪を維持する上でも純度を高めるアップグレードリサイクルの技術が必要だと強調した。
 一方、何かを達成するには別の何かを犠牲にしなければならない「トレードオフ問題」の解決にはデジタル・トランスフォーメーション(DX)が鍵を握ると語り、将来のありたい姿から今、何をすべきかを考えるバックキャスティングの思考が大切だと伝えた。

ナブテスコ

授業タイトル:

SDGs達成へとリードする知的財産活動

坂本 ひろみ 氏

坂本 ひろみ 氏

ナブテスコ
技術本部
知的財産部

知的財産制度は重要なインフラ

 精密減速機など「うごかす、とめる。」を制御する機器のトップメーカー、ナブテスコで知的財産の活用・保護に取り組む坂本先生は「模倣品を排除して発明を守る知的財産制度は、目に見えない重要なインフラ」と指摘。「落下したら飛ぶスマホ」というアイデアが「特許権・実用新案権」「意匠権」「商標権」「著作権」の4つでどう保護されるかをクイズ形式で解説した。
 「発明は課題を見つけることが大事」とし、今年4月に高校の授業で導入された「総合的な探究の時間」という授業と発明には共通点があると解説。特許等公開データを活用した課題探索の最新のアプローチを紹介しながら「SDGs達成への対応を成長の機会と捉え、開発活動を活性化していきたい」と語った。

日産化学

授業タイトル:

安全性を正しく評価することで
ものを創る

古川 賢 氏

古川 賢 氏

日産化学
生物科学研究所
理事副所長
安全性研究部長

正しくリスクを見極める

 日本初の化学肥料会社を前身とする日産化学で安全性研究を手掛ける古川先生は「産業と技術革新の基盤をつくろう」「海の豊かさを守ろう」「陸の豊かさも守ろう」の3つが化学物質に関するSDGsと指摘。技術革新というベネフィットと人体・環境への影響というリスクを両立させることが安全性評価だと解説した。
 「すべての物質は毒であり、用量が毒と薬を区別する」という毒性学の父、パラケルススの言葉を紹介しながら、ハザード評価したうえで、リスク評価を行い、ベネフィットとリスクを考えて開発するか否かを判断するという評価のプロセスを説明。安心・安全を支える「プロのストッパーとしての役割が我々のやりがい」と自らの仕事の魅力と重要性を伝えて、締めくくった。

日立物流

授業タイトル:

物流は新領域へ

多賀 鉄朗 氏

多賀 鉄朗 氏

日立物流
経営戦略本部
広報部長

やり切れば周囲が動く

 サードパーティーロジスティクス(3PL)分野を得意とする日立物流。多賀先生による「LOGISTEEDをコンセプトに、物流を超えた新領域での仕事に挑んでいる」との解説を受けて、南雲秀明先生が登壇。エンジニアリングという新領域を追加したコンピューター機器の輸送における取り組みを紹介し「成功の秘訣は知識より意識の高いチームづくりと揺るぎない信念とリーダーシップだ」と強調した。
 最後にこの挑戦を外から支援した矢部英明先生が登場。日立製作所に34年間勤めた後、現在は大分県で小学校の校長先生をしている自らの経歴を紹介しながら「やりたいことをやり切れば自然と周りが動く。色々なことに挑戦してほしい」と背中を押した。

NOK

授業タイトル:

見つけよう!
サステナブルな未来をあなたの中に

外山 敬三 氏

外山 敬三 氏

NOK
技術本部
商品企画部
NB商品企画課
課長

自分事とし、世界とつながる

 オイルシールやフレキシブルプリント基板などで世界トップクラスのNOK。「本業だけでなく、オープンイノベーションでも社会課題の解決に取り組んでいる」と話す外山先生が身近な事例として紹介したのが「傘のシェアリングサービス」。2030年までに使い捨て傘ゼロを目指すという。
 「自分事として世界につながって、将来を思い描き、自分らしく生きるために今をどうするかを考えよう」と訴える外山先生。自らの体験をもとに、ありたい自分の姿を考え、やりたい事を文字に起こす「自分シナリオ」の活用を勧めながら、「自分をよく知り、目標を持って取り組むことがサステナブルな社会をつくり出し、SDGsの目標達成に向かっていく」とエールを送った。

ニッタ

授業タイトル:

『楽をしたい!』から始まる
社会課題解決

中野 裕美子 氏

中野 裕美子 氏

ニッタ
ニッタ・ムアー事業部
企画管理部
企画管理課

「楽したい」からの業務改善

 産業機械向け製品など多様な分野で活躍するニッタで働く中野先生は様々な業務改善活動に取り組む。「必要な手順は残したまま、方法の見直しや余分な作業とやりとりをなくすことで、楽をしようという活動」として、単純作業を自動化するRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)による取り組みを紹介した。
 1日当たり約2時間の業務短縮効果が出ていることに加えて、「気持ち的に余裕が生まれた」「決まった時間に実行できる」「業務が中断しない」といった効果も実感していると分析したうえで、SDGsの目標の一つである「働きがいも経済成長も」を実現できると強調。「直接関連していないように見えても、社会課題の解決につながる。まずはやってみよう」と呼びかけた。

ニッタ

授業タイトル:

フィットネスジムが
社会に貢献できること
~地域のインフラになる

土屋 敦之 氏

土屋 敦之 氏

Fast Fitness Japan
代表取締役社長

社会の健康を担うインフラへ

 「ヘルシアプレイスをすべての人々へ ! 」を企業理念に掲げ、日本初の24 時間型ジム「エニタイムフィットネス」を全国に展開する土屋先生。コロナ禍での営業自粛を経験したことで、「社会に必要なインフラを目指す」との思いを強めたという。
 SDGs の実現に向けて「日本の健康を創る先進企業へ」「地域の健康、安全を担うインフラへ」という2 つの目標を掲げ、出店立地の多様化やすべての人が快適に利用できる地域に開かれたジムづくりに取り組んでいる。
 保護者が会員なら高校生が無料で利用できるハイスクールパス制度の紹介などを通じて、「高校時代は心と体が成長する大切な時期。高校生こそ運動が必要だ」と熱いメッセージで締めくくった。

galilei

授業タイトル:

フードロスを削減する鍵、
冷やすを止めるな

阪尾 貴司祐 氏

阪尾 貴司 氏

フクシマガリレイ
ガリレイアカデミー
アカデミー長

「直す」から「止めない」へ

 業務用冷凍・冷蔵庫などの製造販売を行うフクシマガリレイ。修理やメンテナンスの人材強化を狙って開設した短期職業訓練校「ガリレイアカデミー」のアカデミー長、阪尾先生は故障を予知する診断システムを通じて「直す」から「止めない」に移行している状況を解説した。
 インターネットで運転状況を監視し、故障が発生する前にサービスマンを派遣するAIと人間との共同作業で食品ロスをなくす取り組みで、故障内容などの情報を集めて学習することで、より精度が高まるという。
 「人が生きていく上でなくてはならない『食』を支えているのは生産者であり、流通であり、冷却技術」。インフラを陰で支える仕事としての誇りを伝えていた。